仕事で他の人に差を付けるには? 池上流「選挙特番の作り方」――池上彰×吉岡綾乃(後編):これからの働き方、新時代のリーダー(2/6 ページ)
7月に参議院選挙が行われた夜、民放各局が選挙特番を放送する中で圧勝したのは池上彰さんが司会をしたテレビ東京でした。あの番組はどのように作られたのか? 池上×吉岡対談後編は、不利な条件下でも他の人に差を付ける仕事をするための考え方、池上さんの読書法に迫ります。
本はT字型に読みなさい
池上: ただし、自分の仕事に必要な本ばかり読んでも成長できないんです。私もNHKの報道記者として警察回りをしていた時には、容疑者逮捕には逮捕状が必要とか、逮捕したら48時間以内に送検しなければいけないとか、刑事訴訟法を知る必要があったので、仕事に必要な知識として勉強しました。
でも私はそれ以外にも、さまざまな分野の本を片っ端から読みました。巨大企業の内幕の話や、米国の経済とか、金融業界の裏話とか……。その時は単純に「自分の世界以外のことを知りたい」という興味からでしたが、それが後になってものすごく生きてきましてね。違う分野のいろんな知識が意外なところで結びついて、視野が広がっていったんですよ。
脳細胞はいろんな神経と神経がつながっていくことによって新しい回路が生まれる。まさにその感覚で、いろんな世界の知識を頭に入れることによって、神経のネットワークが広がっていき、それがあるとき頭の中でつながって新しい理解を生み出すんです。
吉岡: なるほど、池上さんのニュース解説があんなに面白いのは、知識が個別にあるのでなく、回路としてつながっているからなんですね。私は、学生の頃は乱読としか言いようのない本の読み方をしていたんですが、最近はどうしても似たような分野の本ばかり読んでしまっています。せめて隣の分野へ広げていかないとダメですね。いきなり難しい本でなくても、新書だったら簡単に読めるから、知識の幅を広げるのにはいいですよね。
池上: そうですね。新書はだいたい1冊1テーマだから、その分野は今、何が起きて何が問題なのっていうのはとりあえず分かりますね。それはとても大事なことですが、本当はそこで満足してはいけない。大切なのはTの字のような知識を作ること。上の横棒は浅く広く、いろんなことを知らなくてはいけない。そして自分の専門テーマについては深く掘り下げる。それがTの縦棒ですよね。T字型学習法って今勝手に名付けますけど。
吉岡: 縦線がたくさんあったら、もっと良いですね。
池上: ああ、そうですね。Tの縦棒が2本になればΠ(パイ)か。もっと増えて、3本になれば何だろう。8本になればタコみたいな……そういう縦線を増やしていくことができればもっといいですね。
吉岡: Tが増えて、そのうち縦棒同士が横につながっていくと、あみだクジのようになりますね。あみだくじ型学習法(笑)。
池上: なるほど本当だ。確かに、縦線を増やしていくと、思いもよらないところで横の線がつながっていきますね。まさにあみだくじだ。
「積ん読」本を減らす方法
――そこまでの境地にはなかなか行けないとしても、私たちが自分の世界を広げるために、T字型に知識を蓄積していくべきというのは、とても参考になります。先ほどお聞きしたように、情報収集はネットばかりでなく紙の新聞で、飛び込んでくる情報の幅を広げることがとても大切。本に関しても、自分の仕事に関係する本ばかり読むのではなく、広く浅くいろんな分野の本を読んで知識の幅を広げていくことがとても大切なのですね。
吉岡: 読書といえば、最近思いついて、試していることがあるんです。私、よく「積ん読」しちゃうんですね。仕事をしていて煮詰まると、ついポチッとAmazonで本を買ってしまうクセがあって。だから、読み切れない本がどんどん積み上がってしまうんです。それがとても心苦しくて……。そこであるとき、積んである本の目次だけ片っ端から読んでいく、ということを始めたんです。目次の中で面白そうなところを見つけたら付せんを貼って、読む予定のほうに分けておく。これは後回しだなと思ったら元通り積んでおく。それで、読む本も最初からじゃなくて付せんを貼ったところから読むようにしたら、だいぶ積ん読本が減ってきたんですよ。
池上: なるほど、それはいい事を聞きましたね。私なんかも、もうめちゃくちゃ積ん読が多いんだけど、逆に居直っているんですよ。積ん読で背表紙を見ることに意味があると。本と本の背表紙を見ると題名が違うでしょ。この題名のこの部分とこっちの題名のこの部分をくっつけると、新しい本の企画が生まれたりするわけですよ。
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