新型iPhoneはなぜ2モデルなのか、そしてドコモ参入の意味:神尾寿の時事日想(2/3 ページ)
9月10日、AppleはiPhone 5s/5cを発表、そしてNTTドコモがiPhoneを取り扱うことも正式に発表された。なぜ今回、iPhoneは2モデルになったのか。そしてAppleがドコモを「特別扱い」する理由とは?
iPhone 5cとiPhone 5sの棲み分け
iPhone 5cが主流市場をカバーすることを受け、iPhone 5sはより高級で上質、そして高性能なモデルとして進化した。最先端の高級部材がそこかしこに使われ、ソフトウェアやグラフィックス関連の処理能力が最大2倍に引き上げられたほか、カメラ周りや指紋認証を用いたセキュリティ機能など多くの新機能を搭載。これらの多くが、Appleが得意とする「ハードウェアとソフトウェアの密接な連携」によって、他のスマートフォンにはない新たなユーザー体験を生みだしている。より野心的に新たな取り組みを行うのがiPhone 5s、というわけだ。
少々蛇足気味に例えると、筆者は今回のiPhone 5cとiPhone 5sの棲み分けは、自動車業界における「フォルクスワーゲンとアウディ」の棲み分けに近いと感じた。マス市場を狙うモデルとより高級で先進的なモデルとが、共通部分を持ちながらもコンセプトの違いによって魅力あるモデルとして作り分けられ、共存しているところが似ていると感じたのである。
しかもAppleは、iPhone 5cとiPhone 5sで画面サイズや解像度などを変えず、どちらも"iPhone 5以上の性能"として足並みを揃えたため、1世代1モデルから1世代2モデル体制となっても、アプリ側から見て基本的な部分での単一性が崩れないよう腐心している。そのためAndroidスマートフォンで問題になっているプラットフォームの分裂 (フラグメンテーション)も起きない。Appleが自らの優位性を崩さず、ラインアップを拡大した点は注目だろう。
Appleはなぜドコモを特別扱いしたのか
iPhone 5cとiPhone 5sの発表と並んで、今回注目されたのが「NTTドコモのiPhone取り扱い開始」だろう。今回のAppleのキーノートでは、壇上のスクリーンにドコモのロゴが単独で映し出され、Appleのシニアバイスプレジデント、フィリップ・シラー氏が自らドコモがiPhoneの取り扱いを開始することを紹介※。さらにApple発でドコモとの提携について単独のプレスリリースが出るなど、これまでのAppleとキャリアとの関係では考えられない「特別扱い」がドコモに対して行われた。これら一連の動きを見ても、今回のAppleとドコモの提携がどちらかが軍門にくだるようなものではなく、対等な関係に基づいて行われたものであることが分かる。
しかし、なぜAppleは、ここまでドコモを特別扱いしたのか。それはドコモが持つシェアの「中身」を覗くと分かる。
ドコモのシェアの「中身」
ドコモは現在、約2000万強のスマートフォン / タブレット契約者数を持っているが、他方で約3000万強のフィーチャーホン契約者数が残っている。スマートフォンがブームになっているように見えるが、実数で見れば、ドコモにはいまだスマートフォンに移行していないユーザーが多くいるのだ。この「残されたケータイ(フィーチャーホン)ユーザーの数」は他キャリアよりも圧倒的に多い。
ドコモが潜在市場として持つ「ケータイからスマートフォンへの移行需要」は、スマートフォンメーカーにとってのどから手が出るほど欲しいものであり、それはAppleも変わらない。スマートフォンへの移行期も後半戦に入った今、MNPではなかなか動かないドコモの保守的なケータイユーザーに対して販路を広げることは、Appleが日本でiPhoneの販売数・シェアを拡大する上でとても重要なことなのだ。
その一方、今回Appleとドコモが提携したことで、KDDIとソフトバンクはiPhoneの商品力によって、ドコモのケータイユーザーを獲得しに行くことが難しくなった。初めてスマートフォンを購入するユーザーにとってiPhoneが選びやすい・選ばれやすい理由は前回のコラムで書いたとおりだが(参照記事)、これまで「iPhoneをラインアップしているだけ」で得られたドコモからのMNPによる流入を、KDDIとソフトバンクは得られなくなってしまうのだ。そのため両社は今後、ネットワーク品質や料金プラン、各種販促キャンペーンなどでドコモを上回る魅力を作り続けなければならない。望むと望まざるとに関わらず、iPhoneを軸にした競争が熾烈化するのは必至である。
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