バイトテロと「自分らしく生きる」ことの近くも遠くもない関係:サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(2/3 ページ)
バイト先でいたずらを撮影、Twitterで炎上するバイトテロ。「相手の立場に立って考えろ」と大人は思いますが、「考えても分からない」若者が一定数存在するのでは? とサカタさんは指摘します。
相手の立場になれない就活生が憤慨する理由
まずは就活生の場合。面接などの受け答えが上手くいかないので相談に乗ってほしいという就活生に話を聞いてみると、自分の思いばかりが先走ってしまい、相手がいることを忘れてしまっているケースがよくあります。相手の質問をよく聞き、それに沿った話をするのが面接(というよりも会話そのもの)の基本ですが、それができないのです。
「相手の話を聞いて、相手がどう考えるか、『相手の立場になって』考えてみて」と私がアドバイスしても、キョトンとした顔をして意味が分からないと困惑の表情を浮かべます。そして、ビックリするくらいキッパリと「それは無理です」というのです。
どうして無理なのか、と訊ねると「私は面接官の経験がないので、面接官の気持ちになれ、というのは無理です。できるわけがない。社会人でもないので、社会人としての常識で推し量れ、相手の立場になって考えろといわれても、どうしていいのか分かりません」と。同様の話は、就活の現場にはゴロゴロ転がっています。働いた経験がないので働くイメージができないから、意欲を示せといわれても無理、とか、志望動機を述べろといわれても、その会社でなにができるのかやったことがない仕事なので言えない……という感じ。
面接で企業が「自由な服装でお越し下さい」と指定しているケースでも「どんな格好がいいのか、よく分からない」とぼやきます。いや、相手が不愉快に感じない、ビジネスの現場にもマッチする服装ならいいと思うよとアドバイスをしても「自分は相手とは違うし、不愉快のラインも人それぞれだから、相手のことを考えてといっても、外しそう。決めてくれればいい」と、こちらが(いろんな意味で)ほう、なるほどねぇと感心させられる切り返しをしてくる就活生もいるのです。
「自分と相手とは違う」「迷惑は自分にはかからない」
若手社会人たちの間にも同様の話はたくさんあります。例えば、退職したいと相談されたケース。「退職したいので退職願いを出して、即有給休暇を消化したい。2週間後には退職したい」という相手に、「いや、ちょっと待って。法律上問題はないと思うけど、会社は困ると思うよ。上司も同僚も仕事が回らなくなるかもしれない。相手の立場を考えると、もう少し……」と私が言いかけると、それをさえぎるように「相手の立場なんて言われても困る。そもそも相手が困っても私は困らないし、第一、もう辞めるのだから職場が困っても、私には問題ない」などとまくしたてるのです。
また、上司に対する不満から転職を考えているという相談を受けたケースもあります。よくよく話を聞いていると、それこそ「上司の立場になって考えれば、自分にも非があることが分かる」こともよくあるのですが、それを伝えてもまるで耳を貸さないのです。最初は、自分が否定されること、つまり自分にも非があることを認めたくないから「分かっていて」そういう態度を取るのかなと思っていたのですが、どうやらそうでもなく「本当に分からない」様子。
厄介なことに、同様の経験をしたのは1度や2度ではなく、それほどレアな感じでもない。これを読んでいる皆さんの中にも「ああ、そういえば、あの人はそんな感じだったな」と思い当たるケースも少なくないでしょう。
気になったので、試しにネットで検索してみました。「相手の立場」というワードで検索してみると、たくさん出てきます。多くは「相手の立場になることはとても重要、ただ、相手の立場になるのは難しい。なぜなら相手は自分ではないから」と、身もフタもない話から、相手の立場になるためのノウハウがレクチャーされています。そう考えると、今に始まった新しい悩みでもなんでもなく、ごくありふれた問題だともいえそうです。Googleの「『相手の立場に立つ』に関連する検索キーワード」を見ていると、「自己PR」と「相手の立場」という言葉が掛け合わせで検索されていますから、就活や転職領域で仕事をしている私が、そういうある種の困った人をよく見かけるというのも、不思議ではないのかもしれません。
関連記事
- 宋文州氏が語る、日本人が「多様性」を受け入れられないワケ
日本に多様性は必要だと思いますか? こう聞かれると、ほとんどの日本人は「必要だ」と答えるはずだ。にも関わらず、なぜ日本では多様性を受け入れる考え方が広がらないのか。その疑問を、ソフトブレーン創業者の宋文州氏にぶつけてみた。 - 「障がい者主体」ではなく「お客さま主体」――スワンベーカリー・海津歩社長
ダイバーシティが求められる今、企業にとって大きな課題といえるのが障がい者の雇用だ。東京・銀座など全国に28店舗のベーカリーやカフェを展開するスワンでは、社員の約半数に何らかの障がいがあるというが、社員は皆いきいきと働いている。その理由は何か? 海津社長に話を聞いた。 - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:結果には原因がある――若手社会人が「こんなはずじゃなかった」と早期離職する原因
さまざまな情報があふれている現代、それは就職活動でも同じです。就活中に企業や業界について調べたはずなのに、「そんなはずじゃなかった」と入社して数年で会社を辞める若手が減らない原因とは? - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:「こじらせている就活生」に対して、社会人がやってはいけないこと
大学生から就職についての相談を受ける人が増える時期です。最近はいろいろな人に話を聞き、セカンドオピニオンを求めるという学生も増えているのですが、「アドバイスを受けた結果、余計混乱する」という事態が起きているといいます。 - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:「就活地獄」報道は本当か――就職氷河期と企業の採用満足度の関係性
就活が厳しすぎて学生が疲弊している、就活に失敗して自殺者も……といった報道をよく見かけます。しかし本当に、最近の就職活動は大変なのでしょうか? 直近16年分のデータを、企業側、学生側の両方から見てみましょう。 - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」:原宿のカフェとカレーとルーズリーフに書かれた履歴書の話
カフェでカレーを食べていたら、隣の席で面接が始まったというサカタさん。若い女性の前に置かれていたのは履歴書代わりのルーズリーフ(!)。果たしてこの面接の内容は……? お盆更新ということで、普段以上にゆる〜くお届けします。 - ハローワークで“やりたいこと”を探してみたけどなかった、という話
居酒屋で隣り合わせた男性の「やりたいことは、ハローワークでは見つからないな、マジで」という言葉に、思わず聞き入ってしまったサカタさん。就活に至るまでの、キャリア教育の難しさとは? - サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.