JR北海道の問題はどこにあるのか。そして解決する方法はあるのか。:杉山淳一の時事日想(3/6 ページ)
列車火災、脱線事故などを発端としたJR北海道の整備ミス問題は収束どころか拡大する一方だ。いま、JR北海道の鉄道を守るために誰が立ち上がるべきか。現場の職員だ。風当たりは強かろう。しかしこれを再生のチャンスとして改革を進めてほしい。
1日ですべての連結器を交換した鉄道魂
『風立ちぬ』に描かれたリンク式連結器は鎖だから、車両の間隔を維持する機能はない。常に引っ張られている間は良しとしても、張力がなくなると車両同士がぶつかってしまう。そこで突っ張り棒の役目をする緩衝器を取り付けた。しかしこの構造はしばしば人身事故を起こした。重い客車を連結するため、鎖部分も重く強固だ。連結係は鎖を落として足をケガしたり、鈎に手を挟んだりした。緩衝器に挟まれて圧死、バランスを崩して倒れて轢死(れきし)という事例もあったという。
そこで、鉄道院はすべての連結器をナックル形自動連結器へ交換すると決断した。しかも一斉に交換しないと意味がない。長期にわたって徐々に交換するとなると、連結できる車両とできない車両との相性問題が起きて効率が悪いからだ。しかし当時の鉄道車両は約6万両もあった。連結器は車体の両側にあるから、12万個の連結器を交換しなくてはいけない。
それをどう解決したか。ここが当時の鉄道マンのすごいところだ。なんと、5年間にわたって、新しい連結器が納品されるたびに、それぞれの車両にあらかじめぶら下げておいた。同時に全国各地域で連結器交換の訓練を重ねた。そして大正14年のある日、すべての車両の連結器を一斉に交換した。これは世界の鉄道でも前例のない事例だ。そして私はこの話を、鉄道趣味誌などではなく、小学校の社会科の授業で習った。教科書に載るほどの偉業、日本が誇るべき事例だった。これには幼い私も大変ビックリし、感動した。鉄道をますます好きになった。
なぜこのような偉業が達成できたのだろうか。鉄道院はお役所だから、職員の隅々まで通達され、その職務を忠実に守っただけとも言える。しかし、どの現場も手落ちがなく作業を完遂できた背景には、それまでに職場の仲間が遭遇した事故の経験があり、ひとりひとりに安全への切実な願いがあったからだ。
鉄道職員が、鉄道の安全を守ることそれは自分の身の安全を守ること。自分の職場で危険な場所があったら、すぐに修理、改善したい。これが現場の当然の考え方であり行動だ。マズローの欲求段階説でいう「安全欲求」である。生きていくために必要かつ基本的な欲求、心理だ。危険を放置したら自分の命に関わる。
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