JR北海道の問題はどこにあるのか。そして解決する方法はあるのか。:杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)
列車火災、脱線事故などを発端としたJR北海道の整備ミス問題は収束どころか拡大する一方だ。いま、JR北海道の鉄道を守るために誰が立ち上がるべきか。現場の職員だ。風当たりは強かろう。しかしこれを再生のチャンスとして改革を進めてほしい。
現場の声を小さくする「アウトソーシング」
もしかしたら、労働組合もコメントできない立場かもしれない。そう思う根拠は「アウトソーシング」だ。JR北海道の公式Webサイトをのぞいてみると、グループ企業の中に今回の事象のカギとなる会社が見つかった。車両整備関連を請け負う「札幌交通機械株式会社」「札幌工営株式会社」「北海道ジェイ・アール運輸サポート」。線路の整備を請け負う「北海道軌道施設工業株式会社」だ。
「札幌交通機械株式会社」のWebサイトによると「JR北海道グループの一員で、40数年の歴史を持ち、鉄道車両と機械設備を専門とする技術集団です」とある。この会社の主な取引先には日本貨物鉄道株式会社もあった。もうひとつの北海道軌道施設工業はWebサイトを設置していないようだ。JR北海道のWebサイトには「JR北海道の全線にわたる軌道の検測、工事、土木工事および保線機械業務などを行い、線路を総合的に保守しています」とある。
これらの会社が、JR北海道の現場でどこまで活動しているのかは分からない。そしておそらく、両社ともJR北海道社員の労働組合が関与できる会社ではない。だから社員を代表する労働組合としてはコメントのしようがないと考えられる。私には両社の現場の職員が安全に背く行為をしているとは考えられない。しかし、安全のために尽力している現場職員からの報告や危険察知の声に対して、JR北海道はきちんと対応していたのだろうか。そこがJR北海道の不祥事の原因ではないか。
JR北海道の整備ミス問題は、収束どころか拡大に向かっている。整備ミス、危険箇所の放置が相次ぎ、職員による麻薬使用問題や車両の保安装置破壊なども発覚して、報道各社もどこから手をつけていいのか分からず、「鉄道員魂」などの精神論でお茶を濁す論説も登場している。違う。諸悪の根源は、現場の職員と管理する側の意識の乖離(かいり)だ。
正直に告白すると、私は労働組合という組織がよく分かっていない。組合組織の役割は理解できても、過激な方法で待遇を勝ち取ろうというやり方は好まない。小学校のころに僕らを放り出してストをやっていた教員組合には疑問を持ったし、鉄道マンが乗客を困らせるようなストをしたり、電車に落書きして闘争したりする気持ちも分からない。もっとも、私自身が組織というものになじまなくて、ゆえにフリーランスになってしまったから、組合活動が理解できていないという事情もある。
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