メジャーリーグでMVP級の大活躍――上原浩治はなぜ自らを「雑草」と呼ぶのか?:臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(2/5 ページ)
メジャー5年目となった上原は、レッドソックスのクローザーとして圧倒的な信頼を勝ち得ている。チームはア・リーグ東地区を6年ぶりに制した。だが、海を渡るまでの野球人生は決してバラ色とは言い難かった。
巨人のエースだった男が自らを「雑草」と呼ぶ理由
雑草魂――。これは上原がプロ入り当初から自分に言い聞かせ、信条としている言葉だ。球界のエリート集団・巨人のエースであったにも関わらず、なぜ自らを「雑草」と呼び続けているのか。この疑問を解決するヒントも、この苦難の野球人生に隠されている。
東海大仰星高校時代の上原は、まったくの無名選手だった。当然プロから勧誘されることもなく体育教師になる夢を叶えるために大阪体育大学(以下、大体大)を受験したものの、結果は不合格。まさかの浪人生活を強いられてしまう。
それでも上原は腐らなかった。予備校に通うかたわら警備や道路工事の夜間アルバイトをこなして家計を助け、兄から紹介された大阪市内のトレーニングジムへ通いながら肉体強化にも励んだ。
後年、彼はこの浪人時代のことを「たとえどん底であっても一番ギラギラしていた。こんなところで負けてたまるかと常に心を燃え上がらせていた」と振り返っている。「雑草魂」の原点は、この1年間にあったと言っていい。
浪人生活を乗り越え、1年後に大体大を再受験して合格。野球部に入ると、メキメキと頭角を現した。だが野球部は関西の阪神リーグに所属していたとはいえ、レベルの低いグループだ。専用球場もなく、グラウンドは附属高校から拝借していた。しかも学業が優先だったことから、全体練習は昼の1時間のみ。あとは授業の合間に選手が自主練習を行う。上下関係の厳しさもなく民主的。他の大学チームと比較にならないほどに自由な組織だった。
チームには運営費もなかった。遠征費は選手の自腹。チーム内からは「カネがないから勝ち続けたらヤバイし、そろそろ負けようや」という冗談も自然に出た。しかし「こういう笑い話が心地良かった」と上原は言う。そして、こうも続けた。
「練習のレベルは全然厳しくないし、野球のレベルそのものも高校のほうが高いぐらいで、少し拍子抜けがした。でも、こういう環境が自分の向上心を引き出すことにつながったと思う。なんでも自分でやるという意識を植え付けさせてくれたし、何より楽しく野球をやれる環境はボクにとって、とても大きかった」
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