オリンピックが開催されても、鉄道網が整備されない理由:杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)
2020年東京オリンピックの開催決定で、交通インフラの整備が活気づく。しかしJR東海はリニア中央新幹線の前倒し開業を否定、猪瀬都知事も鉄道整備に消極的だ。オリンピックは鉄道整備の理由にならない。それは1964年の東京オリンピックの教訓があるからだ。
次にこのエリアの構想路線、計画路線を見ていく。
新交通ゆりかもめの豊洲―晴海―勝どきが予定されている。この路線はお台場会場エリアと選手村が設置される晴海を結ぶ。勝どきから新橋方向へ延伸し環状化という話も浮上している。しかしあと7年ではおそらく間に合わない。また、猪瀬都知事はオリンピック特需の鉄道インフラ整備に否定的だから、2020年までの延伸は難しいだろう。
ゆりかもめ延伸ルートは迂回しているため、都心―選手村―お台場会場群とメディアセンター(ビッグサイト)の移動はバスのほうが便利だ。そうなると次に浮上する計画は中央区のLRT(次世代型路面電車システム)/BRT(バス高速輸送システム)計画だ。中央区は銀座―築地―晴海を結ぶLRTを計画しており、当面はBRTで整備する方針という。この計画は運河を渡る2本の専用軌道がある。早めに着手すれば間に合うかもしれない。
豊洲から東陽町を経由して、都営新宿線とメトロ半蔵門線の住吉へ接続する地下鉄の計画がある。元は東京メトロ有楽町線の延伸計画だった。東京メトロが新線計画を凍結した後は、江東区が主体となって整備を進めている。この路線は2015年度に着手、2025年度に開業予定だ。これを5年早めるプランには無理がある。オリンピックを理由に資金を投入するにしても、沿線にオリンピック関連の施設が少ない。錦糸町まで延伸整備すると両国国技館へアクセスできる。しかし都営地下鉄大江戸線がすでに通じている。また、前述のように都知事は鉄道インフラ整備に否定的だから、東京都の支援は期待できない。
押上駅―東京駅―泉岳寺駅を結ぶ都心直結線は、都営浅草線の快速線として国土交通省が積極的だ。しかしこれも7年の工期では難しい。長期的な需要予測と資金計画が必要だ。そしてこちらも東京都は消極的である。成田空港と羽田空港はそれぞれ国内線、国際線を拡充させており、乗り継ぎ需要は減っている。そもそもオリンピックは東京で開催されるわけで、東京が目的地だ。成田空港と羽田空港を結ぶメリットは薄い。
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