鉄道イベント列車が快走する――“おもてなし”の心を乗せて:杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)
2013年10月13日と14日、JR西日本で国鉄型急行電車を使った臨時列車「北陸本線100周年記年号」が走った。JR西日本と日本旅行が企画したものだが、ただ走らせるだけではなく、さまざまなイベントを用意して「おもてなし」の心がこもっている。
1号車の車内ではコンサートが開かれた。歌手は伊藤敏博さん。「ボクが鉄道をやめるきっかけとなった曲です」と笑いを誘い、1981年の大ヒット曲『サヨナラ模様』を歌う。続いて、テレビの旅番組のテーマ局にもなった『風色ろまんす』を披露。伊藤さんは富山車掌区勤務時代に『サヨナラ模様』が大ヒット。「歌う車掌さん」として評判になった。歌番組『ザ・ベストテン』では、常に駅からの生中継で出演した。鉄道ファンが車両の運用を追いかける一方で、富山車掌区には女性ファンからの乗務問い合わせが殺到したという。
私を含め、国鉄時代の列車旅を経験した40代以上の参加者にとって、このミニコンサートは懐かしすぎて感涙モノ。ミニコンサートは2曲ずつ2回の開催で入れ替え制。2回目は『サヨナラ模様』と新曲の『かたるしすの風』を歌った。伊藤さんは国鉄民営化に合わせて退職し、歌手として本格的な活動を始めて現在に至る。富山ではラジオのレギュラー番組を持つ人気者だ。11月に大阪、12月に東京でライブを行うという。
加賀温泉駅では華やかなお出迎え。加賀温泉で働く女性たちで結成された「レディー・カガ」のみなさんだ。ちょうど1年前、私は東京で「レディー・カガ」のポスターを拝見し、どこにレディー・ガガがいるんだと探しつつ「加賀の女性」の意味だと知って感心した。その当人たちに出会えるとは感激だ。レディー・カガの皆さんからツアー参加者に、加賀温泉を紹介する冊子と手ぬぐいをプレゼント。参加者からの記念撮影の依頼にも快く応じ、「これぞ日本のおもてなし」という心意気を見せてくれた。
走行中の車内で、大きな荷物を抱えていた参加者に話を聞いた。茨城県からやってきた冨山壮史さん。昨日はJR東日本の長野工場の公開イベントに行き、鉄道部品を購入したという。コレクションには、いままでに軽自動車2台分くらいの資金を投入し、保管場所も軽自動車2台分くらいになっているそうだ。いつか鉄道部品を飾った飲食店を開きたいという夢があるという。オープンしたらまた取材させていただこう。
今庄駅に停車直前、車内では参加者に散策マップが配布された。今庄は北国街道の宿場町として栄えた町。北陸トンネルが開通する前は、峠を控えた鉄道の要衝でもあったという。長時間停車は時間調整の意味合いが大きいかもしれないけれど、座りっぱなしの列車旅にとって、いい気分転換とも言える。タバコ休憩と思わしき人々もちらほら。これも配慮のうちだろう。
敦賀駅では100年前の書生さん、女学生さんの服装を再現した人々が出迎え。モデルさんかと思ったら、なんとJR西日本の職員さんとのこと。鉄道に働く人々から、100年の喜びと感謝のメッセージということらしい。こうして6時間半の旅が終わった。
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