JR北海道不祥事で明るみに出た「鉄道部品コレクション」とは:杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)
鉄道ファンにとって「鉄道部品」は価値のあるものだ。誰にも迷惑をかけないはずの、ささやかな趣味が、マスコミの攻撃対象になってしまった。この趣味もそろそろ健全化への取り組みが必要かもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。
JR北海道の事故多発以降、職員が車両の一部を破壊したり、保線職員が江差線(えさしせん)の信号を誤動作させて進行を妨害するなど、さまざまな不祥事が明るみに出た。ふだんなら報道されないような事象まで細かく報じられ、報道は過熱気味だ。しかし、前記の例は犯罪であり安全を脅かすことだから、報道によってJR北海道を糾(ただ)す意味はあるだろう。
そもそも、これだけ社会がJR北海道に注目する中で、なぜ現場で不祥事が起きるのか。不祥事を起こした当人が「自分だけは大丈夫だ」と思っているなら、その認識は飲食店などで起きている一連のバイトテロと同じだ。鉄道好きとしては「そこまで突かなくても」とも思う事象もあるが、このさいすべての膿(うみ)を出しきったほうがいい。
この鉄道職員の一連の不祥事が、鉄道趣味を脅かす事態になりつつある。10月21日、JR北海道で、ダイヤ改正などに関する社内文書が流出していると報じられた。また、10月7日にJR北海道が発表した「特急車両の非常ブレーキが動作しない状態だった」という件についても、非常ブレーキ関連装置がある運転室や機器室の鍵が市中に出回っていると報じられている。つまり、職員以外の第三者がイタズラをした可能性も出てきた。報道では遠回しな書き方だけど、鉄道ファンの犯行の可能性を示唆している。そんな鍵を持って喜ぶなんて鉄道ファンか、JR北海道によほど恨みを持つ人物しかいないだろう。
鉄道車両に取り付けられる鍵は、クルマや家の鍵とは異なり、共通の形であることが多いという。同じ鍵が国鉄時代のほとんどの車両に使えるそうだ。しかし、これは決して失策ではない。これらの鍵は主に「走行中の振動で誤って開く事態を防止」し、重要な機器であるという注意を喚起して「誤操作を防ぐ」ためにある。いわば“心の鍵”を形にしたもの。中の物を盗まれたり、イタズラを防止するという意味は薄い。
そもそも鉄道職員以外の第三者が使うことを想定していないし、第三者のイタズラの可能性も考慮していない。また、誰かが外部に持ち出したとしても、鉄道の現場以外で使い道がない。だから古い鍵や余った鍵を知人や友人の鉄道ファンに譲ったり、廃棄された鉄くずの中から拾ったりしても問題ないと思われたのだろう。
しかし、「第三者が鉄道の現場に入り込み、鉄道車両にイタズラする」という可能性はある。残念ながら、ここに配慮が至らなかった。鉄道に限らず、日本では物事の多くで性善説を前提としている。悲しいかな。これからは、あらゆるものについて「犯罪に使われたら」と考えなくてはいけない時代のようだ。
そういう視点で見ると、オークションサイトや鉄道グッズショップに並ぶ「鉄道関連の中古品・処分品」は危険なものが多い。「鉄道職員の制服」は列車内で活動するスリにとって絶好のカモフラージュ用アイテムだし、「保線用の工具」も正しく使われなければテロの道具になりうる。純粋な鉄道コレクターにとって、ささやかで貴重な趣味の世界が、犯罪者によって汚されている。鉄道会社にとっても、鉄道ファンにとっても困ったことだ。そろそろ対策が必要かもしれない。
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