残忍すぎてFacebookも掲載禁止にしたメキシコの惨状:伊吹太歩の時事日想(1/2 ページ)
最近、メキシコ発の恐ろしいニュースが続いている。だが、「メキシコは危ない国だ」という反応は、世界のメディアをチェックする限りあまりなかった。むしろ、「ああ、メキシコか」といった感じで受け止められている。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
最近、メキシコに関する恐ろしいニュースが続いている。まずはFacebookに関連するニュースだ。ある「残忍」な動画を巡り、Facebook上に掲載することが許されるのかどうかで議論が噴出。Facebookは、その動画のアップロードを禁止する措置をとった。
メキシコ発のこの動画、とんでもなく残忍で普通なら直視できない。浮気をしたとされる妻が黒いフードを被った男性にビデオカメラの前で生きたまま首を切断されるというものだった。
世界が共有する「ああ、メキシコか……」
だが、「メキシコは危ない国だ」という反応は、世界のメディアをチェックする限りあまりなかった。中東のテロリストに関する残虐なビデオなどはセンセーショナルに取り上げられている。だがメキシコでは日々、似たような恐ろしい事件が発生しており、いちいち反応しないのだ。
その数日後に、メキシコ発のとんでもないニュースが報じられた。北部ヌエボレオン州で違法薬物販売の疑いにより逮捕された20歳の男性が、2012年に79人を殺害したことを供述したというのだ。15歳で犯罪組織に入ったこの男性は、麻薬カルテルの抗争で大勢を殺害したとみられている。
こちらのニュースも普通考えたら各方面からコメントが出て騒ぎにもなりそうなものだが、やはり「ああ、メキシコか」という感じで受け止められ、驚きの反応はあまりない。
もしかしたら一般的には、世界で最も残忍な事件が起きているのは中東やアフガニスタン、パキスタンといった国だという認識があるかもしれない。だが世界でもっとも残忍な事件が起きているのは、メキシコなのではないだろうか。
メキシコでは何が起きているのか。一体どんな危ない国なのか。簡単に言うとメキシコでは「戦争」が起きており、手の施しようのない状況が続いている。メキシコでは麻薬撲滅を目的とした「麻薬戦争」により暴力事件が横行している。
メキシコの麻薬戦争とは何か?
メキシコで実際に何が起きているかについてはあまり知らない人も多い。そもそも麻薬戦争とは何なのか。
現在、米国に入るコカインの9割はメキシコ経由だ。南米各国で栽培・製造された麻薬はメキシコから国境を越えて米国に入る。これを担うのがメキシコ国内にいくつも存在する大規模な麻薬カルテルだ。とにかく彼らは栽培から米国などへの密輸までを行い、年間500億ドル(約5兆円)とも言われる、とんでもない規模の利益をあげている。
メキシコのカルテルの中で、今最も勢力を広げているのはシナロア・カルテル。その他には元精鋭部隊の軍人が中心メンバーと言われるロス・セタス、かつて最大勢力だったガルフ・カルテルなどが有名だ。こうした組織は互いに抗争を行っており、79人を殺したとしてニュースになった20歳の男性はガルフ・カルテルに属し、殺した相手はロス・セタスのメンバーだったとも言われている。
例えば、シナロア・カルテルのリーダーであるホアキン・グスマン(小柄なので「エル・チャポ」と呼ばれている)は過去3年間、米フォーブス誌の長者番付に入っている。極貧家庭に生まれ、オレンジ売りの子供だったチャポだが、現在、資産は10億ドル(約1000億円)に達するとみられている。
メキシコの「麻薬との戦い」の転機は、肥大化し続けてきた麻薬カルテルに業を煮やしたフェリペ・カルデロン前大統領が、米国からの圧力もあって麻薬犯罪の撲滅に乗り出した2006年のこと。いわゆる「麻薬戦争」の開始が布告されたのだ。
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