「竜飛海底駅」が教えてくれた、新たな“商機”:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
JR北海道の津軽海峡線「竜飛海底駅」の公開が終了した。見学できるのはツアー客のみだったが、来年の3月31日には駅自体も廃止となる。しかし、この施設の本来の役目は非常口である。駅としての役割のほうが「例外的処置」だったのだ。
避難施設の観光利用という「商機」
観光ビジネスの観点で見ると、竜飛海底駅からの見学ツアーはとても良くできた仕組みであった。非常口としての設備をそのまま転用するから、見学コース設置にあたって初期費用は少ない。非常事態用の設備を売り上げに結びつけるという発想も良い。非常用設備は、非常事態が起こっていない時は遊休施設。それがカネを生む。濡れ手に粟とも言えそうだ。
金もうけ以外の効果もある。非常用設備を平時に活用すれば、それが非常訓練に準じた練習になる。竜飛海底駅の場合は短くて狭いホームだけ。そこに列車を停車させ、数十人の客を降ろし、また乗せる。これは毎日が訓練といっていいい。私が見学した時は、随行員が隔壁の説明をしつつ、トンネル内の風の流れと火災対策などを説明してくれた。随行員自身も見学者に説明するという仕事から、知識や非常事態の段取りを日々確認できる。
竜飛海底駅は、非常設備の用途外使用というビジネスチャンスを教えてくれた。これに似たような動きが羽田空港にある。
日本空港ビルデング社は2011年12月1日に、「羽田空港船着場」を竣工した。設置場所は空港島の西側、国際線旅客ターミナルに近い多摩川の河口付近だ。もともと石油会社が所有していた旧タンカーバース(桟橋)を譲り受け、国土交通省の許可を得て工事に着手。幹線道路の環状8号線から桟橋までの道と、40平方メートルの待合室、64平方メートルのテラス、管理棟、接岸施設を整備した。
「羽田空港船着場」について、日本空港ビルデング社はその目的を「観光交流・振興(遊覧クルージングなど)、地域振興、および防災・緊急時対策(災害時等における水上輸送ルートとしての活用)などの観点から有効活用する 」と説明している(参照リンク)。「観光に使う」と初めから宣言しているところが潔い。しかし、観光用客船ターミナルではなく、防災設備、災害時の水上輸送ルートの活用も明記。この部分に寄せられる期待も大きい。
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