JR北海道は今、何をすべきか――西武鉄道にヒントあり:杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)
JR北海道の一連の整備不良問題は、ついに会社全体の不祥事となってしまった。監督官庁である国土交通省は特別保安監査を無期限で実施するという異例の処置をとっている。正すべきは正し、その後のJR北海道はどうすべきか。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。
企業で働く人の多くが、何らかの形で自分の仕事や企業に対して誇りを持っている。そう私は信じている。私が社会人デビューしたコンピュータ系の出版社は特にそんな会社で「コンピュータ業界を支えている」「最新のIT技術を伝える」とか。「業界の中心にいる喜び」あるいは「業界の引き立て役」「縁の下の力持ち」などという誇りを持っていた。言葉を口に出したり議論したりという場面はなかったが、表情に現れていた。
ところが、バブル時代になって「コンピュータが好き」という人よりも「お金が好き」という人が幅を利かせるようになり、社外の動向よりも社内の派閥や出世に興味をもつ人が目立つようになって、会社から精彩が失せた。私はそこから逃げ出したが、そこで踏ん張った人は、その会社なき後も新たな場所で活躍している。
鉄道会社で働く人はどうだろうか。鉄道と関わる仕事に対して誇りを持っていると私は信じている。安全な移動サービスを提供する。鉄道が社会を支える。その鉄道会社を支えるという誇りもある。それが日本語では「やりがい」。カタカナ用語では「モチベーション」だ。
JR北海道で働く人々はどうだろう、と考える。私は以前、トラブルが起きる理由について、意識の低下ではなくシステムやマニュアルの不備だと書いた。しかしデータの改ざん、隠ぺいなどの不祥事に至っては、誇りを失った人の仕業である。しかしそれもごく一部で、多くの人々の中に誇りは生きていると信じている。
私がJR北海道に触れた機会は2009年、2010年、2012年に旅した程度だ。職員それぞれの表情に誇りはうかがえたし、接客も悪くなかった。列車は定時に運行され、多少の遅れは見事に回復してくれた。今も堅実なJR北海道職員の誇りに支えられて列車は走っている。
不祥事はほんの一握りの、誇りを失った人が起こす。そして不祥事は少しずつまん延していくから厄介だ。そして会社の上層部が不祥事を起こすと、会社全体のイメージが落ちる。誇りを持って働く人に嫌気が生まれる。それが新たな不祥事の火種となる。乗客との信頼関係が失われ、やがて売上減となって現れ、会社は死ぬ。
JR北海道は国土交通省の特別保安監査を受けている最中だ。そして今日(11月22日)、衆院国土交通委員会はJR北海道社長と常務取締役、工務部長を承知して、4時間半も参考人質疑を行う。これは結果ではなくきっかけだ。不祥事の原因を洗い出し、会社の修復が行われ、再生が始まる。これと平行して、次の段階の準備が必要だ。今、JR北海道は信頼回復のために何をすべきだろうか。
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