JR北海道は今、何をすべきか――西武鉄道にヒントあり:杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)
JR北海道の一連の整備不良問題は、ついに会社全体の不祥事となってしまった。監督官庁である国土交通省は特別保安監査を無期限で実施するという異例の処置をとっている。正すべきは正し、その後のJR北海道はどうすべきか。
幹部の不祥事で沿線ブランド価値が低下した西武鉄道
現場の職員が日々努力し、誰も悪いことをしていないのに、会社のブランドイメージが失墜した。そんな経験をした鉄道会社がある。西武鉄道だ。今では「そんなことあったっけ?」と思う人のほうが多いかもしれない。それは西武鉄道のイメージ回復の手法が秀逸だったからだ。
最近の西武鉄道は、アニメを使って子どもたちに安全を啓蒙(けいもう)し、草刈り要因としてヤギを雇い、ペットと乗れる電車やメイドトレインを企画するなど好印象の話題が多い。最近は女優の吉高由里子さんをCMに起用して秩父への旅をアピールしている。外資系ファンドの路線廃止提案でケチが付いたものの、西武鉄道に対して悪い印象を持つ人は少ない。むしろ、鉄道会社としては沿線サービスに積極的で好感度は高い。
しかし、好感度アップの取り組みのきっかけは不祥事だった。鉄道の現場ではなく、幹部の不祥事。2004年に吹き荒れた西武ショックだ。2月に総会屋への利益供与の疑いで西武グループの役員11人が逮捕され、西武鉄道の社長が辞任した。10月には有価証券報告書の虚偽記載が発覚。株主の8割が創業家の堤家(コクド社)で、これを社員持株会ほか個人名義に偽装していた。実態として流通株の比率が東証の上場基準より少なかった。また上場基準を満たさず、証券電子化の流れで発覚が危ぶまれる段階で、株式を取引先や同業鉄道会社に売却。西武鉄道幹部がインサイダー取引の容疑で逮捕された。
西武鉄道の場合は現場の鉄道に不備はなく、乗客の安全が脅かされる事態にはならなかった。しかし、堅実に業務を遂行している現場の職員にとってはショックだっただろう。西武ブランドの信用失墜である。連日のように西武鉄道に対する批判的な報道が続けば、デパートやリゾートの売り上げに響くし、なによりも従業員の士気が低下する。
鉄道に関しては、競合する鉄道路線は少なく、乗客が嫌気して離れる事態にはならない。でも、安泰というわけではない。関東私鉄の場合、鉄道路線は競合しなくても、沿線ブランドは競争している。住宅販売と沿線人口に影響するからだ。東急沿線、京王沿線、小田急沿線、東武沿線、西武沿線。鉄道会社が沿線不動産に関わってきただけに、引越し先を選ぶ時の鉄道会社のブランドイメージの影響は大きい。
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