JR北海道は今、何をすべきか――西武鉄道にヒントあり:杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)
JR北海道の一連の整備不良問題は、ついに会社全体の不祥事となってしまった。監督官庁である国土交通省は特別保安監査を無期限で実施するという異例の処置をとっている。正すべきは正し、その後のJR北海道はどうすべきか。
JR北海道社員の誇りを回復するために
実は、西武鉄道のグループビジョンとさまざまなプロジェクトについて、前述した部分は「乗客から見える場所だけ」。実際は社内向けの活動目標も定めている。「誠実であること」「共に歩むこと」「挑戦すること」の3本柱が元になっていて、内部統制システムの強化、法令遵守(コンプライアンス)の浸透などの指針が細かく定められた。
従業員向けには、「グループビジョン定点調査アンケート」を毎年実施して、グループビジョンの進展、実現へ向けての環境調査、社内の課題の確認などを実施している。また、年に1回、グループビジョンに取り組んだ職場を「チームほほえみ賞」として表彰し、全職場で共有している。グループ社員がチームを作って経営陣に新施策を提案する「ほほえみFactory」を開催し、駅チカ保育所などが実現した。
細かいところでは、「Good Jobカード」というシステムがある。グループビジョンに基づいて行動した部下に上司が渡す「ほめる制度」で、職場の雰囲気アップに役立っているようだ。
西武鉄道は首都圏の通勤路線だし、JR北海道は広大なJR北海道域を網羅する鉄道である。地域も、企業の規模も、運輸サービスのあり方も違う。だから西武鉄道のイメージアップ作戦がそのまま通用するとは限らない。だいいち、JR北海道はかなりマイナスからのスタートだ。そして諸問題は解決していない。今からイメージアップキャンペーンを表に出せば、なにを浮かれているのだと批判の対象になる。
しかし、諸問題が解決した後には次の一手が必要になる。その準備を今から進めたほうがいい。その理由は「社員の誇りの回復」だ。JR北海道はJR東日本から人材を受け入れ、施設整備について徹底的に改善していくという段階である。すべての問題が決着したら、次は信頼とイメージの回復という段階に入る。ここで西武鉄道への応援要請をオススメしたい。
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