新ポスティング制度を座礁させた“選手会ネクタイ組”の存在:臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(1/3 ページ)
楽天・田中将大選手のメジャーへのポスティング移籍が保留状態になっている。決まりかけていた新制度に「待った」をかけたのは身内のプロ野球選手会だった。取材を通じて、選手会の戦術ミスが明らかになった。
著者プロフィール:臼北信行
日本のプロ野球や米メジャーリーグを中心としたスポーツ界の裏ネタ取材を得意とするライター。WBCや五輪、サッカーW杯など数々の国際大会での取材経験も豊富。
移籍容認か否か。楽天のエース・田中将大投手の“夢の行方”が保留状態にある。2013年11月14日、米大リーグ機構(MLB)が新ポスティングシステム(入札制度)を取り下げ、修正案を出すと発表したからだ。
この流れを受け、当初は田中の希望どおりにメジャー挑戦を容認する方向性だった楽天サイドが「ウインターミーティングまでが1つのキー」(立花球団社長)とコメントを発表。日本時間の12月10〜13日まで行われるウインターミーティング終了までに新制度が成立しなかった場合、入札制度を利用したエースの移籍を認めない方針を固めた。
簡単に言えば、田中のメジャー挑戦のリミットは12月10日に設定されたということだ。一方でNPB側が「1日でも早く決めなければいけない」として伊藤法規部長ら幹部クラス数人を11月25日から米国へ緊急派遣し、MLB担当者と直接交渉を始めたことから、順調に推移すれば米国が感謝祭の祝日に入る11月28日(日本時間29日)までに新制度がまとまる見通しも出てきた。1カ月近くもスッタモンダを繰り返したポスティング問題の終着点がやっと見えてきたようだ。
新制度に「NO」を突き付けた選手会の思惑
とはいえ、このデッドラインまでに制度が決まれば「田中のメジャー移籍はOK」というわけではない。楽天側が「われわれとしても引くわけにはいかない」と注視しているのは新制度の内容。修正案が組み込まれた新制度は入札金の大幅な減額など、できる限り安く上げたいMLB主導の条件になることは必至だ。
それだけに楽天サイドは立花球団社長が「ポスティングを利用するかしないかを判断するのは球団。新しい制度ができたら球団でもむ(話し合う)ことになる」と言うように、田中の価値に見合わない額では落札球団からのオファーを受諾しないことも示唆し、ハッピーエンドとならない可能性も十分あるという。
一体どうしてこんなことになったのか。発端となったのは日本野球機構(NPB)とMLBの間で合意寸前だった新しいポスティングシステムに、日本のプロ野球選手会が「NO」を突き付けたことである(参照記事)。
当初、MLB側が日本側に提示した案は選手の所属球団に莫大な額が入る内容だった。これまでのような入札の最高額でなく1位と2位の間になるとはいえ、米メディアは田中の入札金が7500万〜1億ドル(約75億〜100億円)に達すると予想していた。
そういう中でMLB側が「最大限に譲歩するのだから、さっさと返事をしろ」と交渉の期限を迫っていたにも関わらず、日本の選手会が「入札金額の1位の球団しか交渉できないことに不公平さを感じる」などとして、ちゃぶ台をひっくり返してしまったのだ。
それが米国のFA市場が開いた直後となる11月2日(日本時間)。これから各球団の来季に向けた編成が活発化し始めるターニングポイントとなる日だった。
田中のメジャー挑戦が確実視され、一刻を争わねばならない状況であるにも関わらず選手会はまるで牛歩戦術のようにノラリクラリ。ようやく、その2週間後の14日に「2年限定で認める」と言い出したものの「NPBとのすり合わせはまだ先」などと悠長に構えていたから、業を煮やしたMLBサイドがブチキレてしまったのだ。
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