「劇場型詐欺」でカモられるのはどんな人?:窪田順生の時事日想(1/3 ページ)
「劇場型詐欺」の被害に遭う人が後を絶たない。架空の未公開株などに投資させる際、だます相手を信用させるために複数の人間がかかわっているのが特徴だ。そんな詐欺の手口にどんな人がカモられているのだろうか。
窪田順生氏のプロフィール:
1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。
ちょっと前、某テレビ局の報道番組から頼まれて、未公開株詐欺の取材に協力したことがある。
具体的には既知の詐欺グループ関係者をホテルの一室へ来てもらい、テレビカメラの前でいろいろな話をしてもらった。「警視庁24時」なんかでもおなじみのモザイクがかかった犯罪者が、ボイスチェンジャーを使った奇妙な声で告白する例のアレだ。
その撮影時、ディレクターが詐欺グループ側にこんな質問を投げかけた。
「なぜ高齢者を標的にするのでしょうか? お年寄りからおカネをだまし取って悪いとか思わないんでしょうか?」
違法ビジネスに手を染める者というのは、「本当はいけないことだけど、食っていくためには仕方がない」などと良心の呵責(かしゃく)に苛(さいな)まれながら仕事をしているわけではない。
もちろん詐欺も然りである。カネがあって、ダマされやすい人々の情報が羅列された名簿が裏マーケットで流通しており、詐欺のマニュアルをつくる者がいて、電話をかける役割の者たちは機械的に“営業電話”をかける。別になにか深い考えがあって「標的」を決めているわけでもないし、被害者に対して特別な感情もない。
だから、質問された詐欺グループ側も答えに窮しており、しばらく考えてようやくこんなことを言い出した。
「そうですねえ……そこにおカネがあるからで特に悪いとかは考えてないです」
この言葉からも分かるように、ダマす側は驚くほど“罪の意識”に乏しい。もちろん非合法なことに手を染めているという自覚はあるものの、自分のパートを受け持っているだけなので、自分自身が老人からカネをぶんどっているという感覚がない。つまり、分業していることで罪悪感も薄められているのだ。
関連記事
- ブラック企業問題はなぜ「辞めればいいじゃん」で解決しないのか
従業員を劣悪な環境で働かせ、使い捨てにする――。いわゆるブラック企業が社会問題になっているが、なぜそこで働く人は会社を辞めようとしないのか。その背景にあるのは……。 - NHKが、火災ホテルを「ラブホテル」と報じない理由
言葉を生業にしているマスコミだが、会社によってビミョーに違いがあることをご存じだろうか。その「裏」には、「華道」や「茶道」と同じく「報道」ならではの作法があるという。 - 朝日新聞が、世間の感覚とズレにズレている理由
気鋭のジャーナリスト、上杉隆氏、相場英雄氏、窪田順生氏の3人が、Business Media 誠に登場。「政治評論家に多額の資金が渡った」と指摘されている官房機密費問題や、メディアが抱える問題点などについて語り合った。 - 最近のフジテレビはなぜ「シンガポール推し」なのか
最近のフジテレビが「シンガポール推し」であることをご存じだろうか。「めざましテレビ」のあるコーナーではシンガポールネタが目立つ。映画『謎解きはディナーのあとで』でも舞台はシンガポール。ここまで取り上げると、なにやらオトナの事情があるようで……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.