なぜ四日市市は「電車」にこだわったのか――私たちが忘れてはいけないこと:杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)
民間企業の鉄道会社が「赤字路線をBRTに転換したい」と申し入れ、自治体が「鉄道を維持してほしい、カネは出せない」と受け入れない。そんな膠着状態を経て、近鉄内部線・八王子線の問題は、鉄道での存続が決まった。なぜ四日市市は鉄道に固執したのか。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。
近鉄が2012年1月に四日市市へ内部線・八王子線問題を提示し、8月にBRT(バス高速輸送システム)による存続を提案。しかし四日市市は沈黙したまま、2013年に市長がBRTを拒否し鉄道の存続にこだわる姿勢を見せた。その経緯については以前にも紹介したとおりだ。
→ローカル路線を巡って近鉄と四日市市が泥沼の対立、決断はこの夏
この問題は、2013年9月に「公有民営化」で決着した。2015年度から、四日市市が施設を保有し、近鉄と四日市市が出資する第三セクターが運行する。その準備として、四日市市は1月27日に「公共交通推進室」の設置を含む新年度組織案を議会に示したと報道された(参照リンク)。内部線・八王子線の新会社設立の準備と、四日市市全体の公共交通政策を推進するためだという。
近鉄の問題提起から1年9カ月、四日市市は鉄道にこだわり続け、鉄道の存続を勝ち取った。近鉄としては自社の経営から赤字ローカル線を切り離せる。ただし、運行会社の資本金の75%として最大3750万円程度、さらに移管後10年間の赤字見込み額のうち8億円を負担する。四日市市は鉄道の維持を達成しつつも、第三種鉄道事業設立などで総額約20億円を負担する。また、運行開始11年目からの赤字もすべて負担する。双方痛み分けといった印象である。ともあれ、地元で鉄道を必要としていた人々の願いはかなった。
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