被災路線をあえて手放す、JR東日本の英断:杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)
JR東日本は山田線被災運休区間の地元自治体への譲渡を提案した。地元は鉄道を望み、JR東日本はBRTを固持してきた中、これがJR東日本からの最後の提案となるだろう。地元は素直に受け入れられないようだが、これがベストプランだと思われる。
予想の上を行く手厚い内容だが……
そもそも鉄道会社が「鉄道よりもバスにしましょう」と言うなんて情けない。鉄道の負けを認めたようなものだ。「鉄道を復活させるために身を引きます」という態度のほうが潔い。
あの記事から2年後、本当にJR東日本は撤退の構えを見せた。私の記事は鉄道ファンの戯言だという自覚があったが、同じように考える人がJR東日本にもいたわけだ。そして「戯言」の域を超えた手厚い付帯条件が付いている。報道によれば、「鉄道設備をすべてJR東日本が復旧させた上で自治体に譲渡する」、「運行は三陸鉄道が実施する」、「JR東日本は当面の営業赤字の負担も考慮する」という。
私は「線路用地の無償譲渡」と「営業権の放棄」しか想像できなかった。しかし、JR東日本は用地の譲渡だけではなく、復旧まで面倒を見てくれる。その後の赤字まで援助してくれる。地元にとって、これは好条件の提案のはずだ。線路設備の維持管理は地元自治体の負担となる。しかし経営が三陸鉄道になれば、この区間にも国の地方鉄道支援策を導入できる。
この提案に対して、鉄道を望んでいる地元自治体の判断はまとまっていないようだ。宮古市の山本正徳市長は「鉄道復活の選択肢のひとつ」として、県や沿線自治体と具体的協議に入る意向を示した(参照リンク)。釜石市の野田武則市長も同様の考え(参照リンク)。しかし、市町村の実務担当者は「JRによる鉄路復旧が前提」「震災前と同じくJRの運行が前提」として難色を示している。
会議ではJR東日本の提案に対して「不採算路線の地元押し付けではないか」という質問もあったという。それはまったくそのとおりだ。しかし、見方を変えれば、いままで不採算路線を民間企業に押し付けてきた地元自治体の責任も問われるべきである。このお役人たちは、JR東日本を「日本国有鉄道」が名前を変えただけだと思っていらっしゃるようだ。もう国鉄ではない。民間企業である。
関連記事
- なぜ四日市市は「電車」にこだわったのか――私たちが忘れてはいけないこと
民間企業の鉄道会社が「赤字路線をBRTに転換したい」と申し入れ、自治体が「鉄道を維持してほしい、カネは出せない」と受け入れない。そんな膠着状態を経て、近鉄内部線・八王子線の問題は、鉄道での存続が決まった。なぜ四日市市は鉄道に固執したのか。 - ご存じ? バス停留所で生まれた、新たなビジネスモデル
自宅の最寄りのバス停が、ある日突然カッコよくなった。屋根がつき、ベンチが付き、ガラスの掲示板にバスの情報がしっかり掲載されている。壁にはオシャレな広告も入っていた。最近、都内ではこのスタイルのバス停が増えているようだ。仕掛け人は……。 - JR東日本は三陸から“名誉ある撤退”を
被災地では、いまだがれきが山積みのままだ。現在、がれきをトラックで運び出しているが、何台のトラックが必要になってくるのだろうか。効率を考えれば、鉄道の出番となるのだが……。 - 観光客はどこに行ってるの? 位置情報のデータから分かったこと
「観光客がどこに行っているかって? そんなの分かるはずがない」と思っている人も多いのでは。実は、ゲームやスマートフォンの位置情報を使って、“観光客の動き”が見えてきたという。大分県の湯布院や岩手県を訪れた人は、どんな特徴があるのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.