タイの反政府デモ騒動、両者は何を争っているのか:INSIGHT NOW!(3/3 ページ)
首都中心部を占拠していたタイの反政府デモに新しい動きが出た。封鎖は解除されたが、これは妥協を模索するというより、デモ隊側の内部事情によるものだ。赤シャツ派と黄シャツ派の対立は根が深い問題で、簡単に解けるものではない。
根が深い「利害」の対立
今回のデモ騒動の原因と収拾のイメージに関しては、双方の言い分は対立しており、全く相入れない。先日話したタイ人の友人(バンコク市民の大企業経営者で、もちろん民主党支持者)によると、タクシン政権と同様、今のインラック政権も腐敗し切っており、投票と動員をカネで買っていると主張していた。
価格維持のため、実質的な補助金として北部農民の米を買い上げたまま無駄に在庫しているなどの例を挙げ、それに対して都市部は、渋滞対策などまだまだインフラ投資が不足していると批判した。バンコク市民やビジネスパーソンたちは商売上の不利益を我慢しながら、タイの“真の民主化”のために多少の不法行為に目をつむって、デモ隊を支持しているのだと強調していた。事実、デモ隊に対し、周辺の商店街の人やビジネスパーソンたちからの寄付が毎日寄せられているという。
一方、タイの政府関係者と親しい人の話では、相当ニュアンスが変わってくる。北部の農村に多いタクシン派の人たちは、投票ではタイ貢献党を支持しているものの、それは賄賂によるのではなく、農村にインフラ投資をして農業の生産性を上げ、特産物を作るための仕掛けを施してくれたタクシン政権の政策が復活して(地域によっては維持して)欲しいとの思いなのだそうだ。
取材した日本のテレビ番組で証言していた農家の主婦も「私たちがまともな生活をできるようになったのは、タクシンさんのおかげ」と語り、「(黄シャツ派の連中は)私たち田舎者を馬鹿にしており、政府の金をつぎ込むのはまったくの無駄使いだと思っている」と怒っていた。
どうも、日本での自民党による、地方への無駄な公共投資とはインパクトや真剣さのレベルが違う。対立の根本には、地方に公共投資をして経済的な底上げをすることへのコストパフォーマンスについて見解の相違があるように思える。
言い換えれば、「今まで通り、バンコク中心に富めるものをより富ませれば、そのおこぼれで地方は十分食べていける」と考える黄シャツ派と「バンコクの連中はもう十分に稼げるようになったのだから、次は農村を豊かにする番だ」と考える赤シャツ派の対立なのだ(ただし黄シャツ派でも、タイ南部の人たちは、いずれにせよ置いてけぼりになるが)。
利害関係の対立なので、この根は1、2年で解けるものではなく、今後何度も噴き出すと懸念される。しかし、せっかく上昇気流に乗っているタイ経済が失速しないよう、ましてや深刻な内乱などに発展しないよう、双方には冷静な対応を期待したい。(日沖博道)
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