新幹線などに搭載される「医師支援用具」は使われない……かも:杉山淳一の時事日想(6/6 ページ)
JR東日本は3月15日のダイヤ改正から、同社の新幹線と在来線特急列車の全編成に聴診器など「医師支援用具」を搭載すると発表した。持病を持つ人にとっては心強い施策だが、実際にそれを使ってくれる医師は現れるのだろうか。
「善き医師」のために、できることは何か
JR東日本の「医師支援用具」搭載の施策はよいことだ。これは間違いない。しかし、現在、医師の側にドクターコールに応じる不安がある。これも事実。JR東日本の施策を契機に、交通機関とドクターコールについて、議論が尽くされ、良い方向に進んでほしいと思う。
例えばルフトハンザ・ドイツ航空は「Doctor on boardプログラム」を実施している。これはドクターコールに応じてくれる医師をあらかじめ登録し、マイレージなどさまざまな特典を用意するほか、ルフトハンザが会社として契約する保険において医師への賠償請求を免責する制度だ。日本の医師も参加できる。
また、ほかの航空会社も、医療支援器具についても注射液などをそろえているようだ。JR東日本もこうした事例は承知しているようで、今回の「医師支援用具」をきっかけに、今後も必要に応じて旅客サービスの一環として充実させていきたいという。しかし、ドクターコールについて医師の環境が整わなければ、これ以上の施策は踏みとどまるかもしれない。
さて、多くの読者がこの問題にもっとも関わる立場と言えば「急病人」つまり、助けてもらう立場であろう。私は喘息をもち、慢性腸炎を抱え、2型糖尿病の経過観察の身である。喘息については発作で何度か死にそうになった。現代の医療技術かなくては生きていけない。常に吸入薬を持ち歩いているが、その薬を紛失したら、あるいは使い切ってしまったら、という不安を常に抱えている。
万が一の場合はドクターコールに頼りたい。私への治療を躊躇(ちゅうちょ)しないでもらいたい。もちろん、どんな結果になっても訴えたりしない。そうした意思表示をさせてもらえたら、少しは医師の精神的負担を和らげるのではないだろうか。例えば、脳死の際の臓器移植には意思表示制度があって、専用のカードや運転免許証で意思表示できる。議論はあるようだが、尊厳死、つまり苦痛を伴う延命治療を拒否する宣誓書もあるそうだ。これと同様に、ドクターコールに対する感謝と免責について遺言できるカードを示せたらいいと思う。私の場合、喘息の発作時は会話ができない。口頭では依頼しにくい。
以上、JR東日本の施策をきっかけに、恥ずかしながら医療や法律に疎(うと)いまま提案させていただいた。医師の善意にブレーキをかける社会は改善すべきだ。素人考えであっても、そこは間違っていないと思う。
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