新幹線などに搭載される「医師支援用具」は使われない……かも:杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)
JR東日本は3月15日のダイヤ改正から、同社の新幹線と在来線特急列車の全編成に聴診器など「医師支援用具」を搭載すると発表した。持病を持つ人にとっては心強い施策だが、実際にそれを使ってくれる医師は現れるのだろうか。
実際は免責、と識者は言うけれど
日経メディカルは同号で、ドクターコールの治療失敗について「法的には免責されている(参照リンク)」という意見を掲載した。
ここでは民事責任について、東大大学院法学政治学研究科教授の樋口範雄氏の言葉を元に、「民法第698条でドクターコールに対する処置は基本的に免責されている」と結論づけている。民法第698条を解釈すると、「医師は急病人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるためにドクターコールによる治療をした時は、悪意又は重大な過失がなければ、生じた損害を賠償する責任を負わない」となる。
刑事責任については、togetterでモデレータ役となった人が厚生労働省に問い合わせている。それによると、刑法37条1項により「自己又は他人の生命、 身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を越えなかった場合に限り罰しない」として、刑事責任に問われる可能性は低い。ただし、厚生労働省としては「刑事事件については個々の事例について取り調べ、裁判が行われて刑が確定するため、免責を断言できない」というお役所らしい回答であった。ちなみに刑事責任を問う判例はないとのこと。
刑事的にも民事的にも、ドクターコールに応じた医師は免責されるらしい。しかし、それでも医師たちは不安のままだ。この不安を解消するにはどうしたらいいのだろう。
日本版「良きサマリア人の法」を求める声
この問題を調べていると「良きサマリア人の法」というキーワードが出てくる。聖書のエピソードを元に、「急病人に対して無償で善意の行動を取った場合、そこで過失があったとしても結果責任を問わない」という法律だ。「善意である限り最善を尽くせ。あとは法的にバックアップするからね」と、ドクターコールを受けた医師を法的に支えている。これは全米で、免責内容に違いはあれど立法化されているそうだ。
日本でも立法化に関する議論があるが、制定に至っていない。前述の民法698条と刑法37条で実質的に「良きサマリア人の法」の機能があるという意見もある一方で、それぞれの法解釈によって免責されない可能性を危惧する意見もある。確かに民法698条では「重大な過失がなければ」が気になるし、刑法37条では「生じた害が避けようとした害の程度を越えなかった場合」というただし書きが気になる。
この問題のゴールは、医師が善意のままにドクターコールを受けて、その手腕を発揮できる社会の実現だろう。私は素人ながら「良きサマリア人の法」があればいいのに、と思う。日本医師会に問い合わせてみたところ、同団体として「良きサマリア人の法」制定に関する政治的な動きはしていないそうだ。
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