安易な英語乱用や大仰な日本語訳を見直す:ビジネス英語の歩き方(1/4 ページ)
最近、新しいカタカナ英語を目にすることが多くなりました。「ベースロード」「プライマリーバランス」……。もう少し簡単な日本語で表現できないものでしょうか?
「ビジネス英語の歩き方」とは?
英語番組や英会話スクール、ネットを通じた英会話学習など、現代日本には英語を学ぶ手段が数多く存在しています。しかし、単語や文法などは覚えられても、その背景にある文化的側面については、なかなか理解しにくいもの。この連載では、米国で11年間、英語出版に携わり、NYタイムズベストセラーも何冊か生み出し、外資系経営コンサルティング会社を経て、現在は執筆活動に従事する筆者が、ビジネスシーンに関わる英語のニュアンスについて解説していきます。
最近よく目にするカタカナ英語に「ベースロード」があります。原発再稼働をめぐる議論で、「ベースロード電源として、化石燃料だけでは十分でない」などと使われます。
英語では「base load」と書きます。「load」は、ダウンロードやアップロードのロードと同じで、負荷のこと。もっと平たく大和言葉でいえば「にもつ」のことです。電力に関していえば、「電気を安定供給するための基礎電力」ということでしょうね。もとは経済産業省あたりから出てきたもののようで、国民を煙に巻く意図が見え隠れして、すこし怪しげな印象を受けます。
説明が面倒だから外来語で済ませてしまう文化
似たようなものに財務省から出てきた「プライマリーバランス」があります。おおざっぱにいうと、国債にかかる費用などを除いて、国の収入(主に税金)と支出が均衡しているかどうかの指標です。
このプライマリーバランスという英語には、「基礎的財政収支」という日本語訳が一応ありますが、多くの場合カタカナ英語のまま使われます。日本には昔から、「面倒なことは外来語を使う」というゆがんだ文化があって、「国に入ってくるお金と出ていくお金がつりあうようにすること」と、大和言葉でいえば非常に明瞭(めいりょう)な話を、外来語で抽象化しています。
日本語には、大和言葉、漢語(長い時間をかけて中国から輸入された表現と明治期などに欧米の事物を日本で漢語風に訳したもの)の2種類に加え、外来語というカタカナで書かれる表現群があります。日本人の頭にしっくりと染み込む順番も同じようです。
例えば、「きもち」という大和言葉から「感情」という漢語になると抽象度が上がります。「フィーリング(feeling)」とか「センチメント(sentiment)」という外来語になると、「きもち」からは大分距離があるように感じられます。
日本人の脳の中、あるいは日本語という膨大な小宇宙の中では、大和言葉が最も深いところで基盤を作っていて、次に漢語がその上の層をなし、最後に外来語が乗っかっている。そういう感じがします。
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