世界を脅かしているウクライナ危機――最悪のシナリオとは:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
ウクライナ危機は世界を脅かしているが、日本の株式市場はそれほど影響を受けていない。しかし世界最大の債券運用会社の元CEOが、フィナンシャルタイムズ紙に“最悪のシナリオ”を寄稿した。その内容とは……。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
いま世界を脅かしている最大のリスクはもちろんウクライナ危機だ。中国経済もリスクの1つだが、ウクライナほど差し迫ってはいない。ウクライナ危機は現在進行形であるばかりか、場合によってはウクライナ内戦の危機まではらんでいる。それなのに、週明けの東証の株価は大幅に上昇し、251円高の1万4475円になった。欧州市場はやや下げているとはいえ、ウクライナを気にしているようには見えない。
欧州市場も米国市場も、少なくともこの原稿を書いている火曜日朝の時点では静かなもの。「市場は地政学的リスクを過小評価している」と世界最大の債券運用会社PIMCOのCEOだったエルエリアン氏がフィナンシャルタイムズ紙に寄稿したほどだ。
最悪のシナリオ
エルエリアン氏が恐れる最悪のシナリオは、ロシアのプーチン大統領がクリミア併合に続いて、ロシア系住民の多い東ウクライナなどに「軍事」介入をして、国境線を書き直そうとすることだ。そうなると、欧米はロシアに対する経済制裁や金融制裁を強めざるをえない。これまでのように、声は大きくても実効性はあまりないという制裁ではすまなくなるだろう。ロシアはこれに対抗して欧州に対するエネルギーの供給を減らすかもしれない。真冬を過ぎているのは幸いだが、これによって、世界経済は再び景気後退に陥り、資本市場は大混乱する。
もちろんこれが最も可能性の高いシナリオだとはエルエリアン氏も言わない。しかし2010年の国家債務危機から立ち直り切れていない欧州、ようやくデフレから脱却しつつある日本、雇用状況が改善しつつある米国。少なくとも先進国経済はまだ完全に回復軌道に乗ったとはいえない。
しかもウクライナ自身も政府の債務危機を抱えている。2014年末までに100億ドル(約1兆円)を返済しなければならないとされる。EUをはじめ米国や日本も支援を行う構えだ。金額が小さいためにそれほど危険視されていないが、これでもしロシアとウクライナが軍事的に対立することになったら、その金額はあっという間に膨らんでしまう。
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