それでも「鉄道が必要」──三陸鉄道に見る「三陸縦貫鉄道復活」への道と将来:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
東日本大震災から3年を経て、三陸鉄道が全線復旧した。鉄道以外にいくつかの手段が模索される中、今回それぞれの交通システムを体験して分かった。それでも「鉄道が必要だ」と。
観光用の装置としての鉄道、バスによる復旧は「過疎化する現状」に戻すだけ
復旧したばかりの三陸鉄道南リアス線、北リアス線に乗ってみると、改めて鉄道のよさが分かる。地域の交通手段はバスのほうが便利かもしれず、専用道を使うBRTのメリットもよく分かる。それでも私は鉄道が必要だと思う。その理由は「旅行者への訴求」「速度」「輸送量」そして「未来」だ。
旅行者にとって、路線バスの車両は居心地がよくない。客室が狭いので荷物の置き場も乏しい。車窓を眺めるとしても、列車のように車内で移動して左右の景色を楽しむというような行為は禁物。バスは着席が基本だからだ。そもそも都会から旅して来た人が、都会と同じきゅうくつな路線バスに乗って楽しいだろうか。私は乗り物好きだから、BRTがどんなものかと見物にきたが、多くの旅人にとってBRTは普通の路線バス、移動手段であろうため、興味の対象にはならないだろう。
このことはJR東日本も認識している。同社は観光層向けに「観光型BRT車両」を導入する予定だ。窓を大きくし、気仙沼線には4人向かい合わせのボックスシート、大船渡線には海向きのシートを用意するといったもの。とてもよいアイデアだが、JR東日本のプレスリリースを確認する限り、その座席は1〜2グループしか利用できないようだ。観光型をうたうなら、ハイデッカータイプの車両で全座席をボックスシートと海向きシートとし、気仙沼線と大船渡線を直通する急行運転を実施するとか、景勝地に立ち寄るとか、もうひと工夫がほしい。
「速度」と「輸送量」は、バスより鉄道が確実に優れている。それは誰でも分かる。
バスは例えば集落のひとつひとつにも立ち寄れる身軽さがある半面、所要時間はかかる。また、路線バス1台の定員は約50人、そのうち座席は半分以下だ。需要が増えれば増便するか積み残しとなる。一方、三陸鉄道の気動車は定員110人、そのうち座席は50人分ある。鉄道車両の定員は余裕があるので、突発的な需要が発生したとしても、乗車率200%でも運行できる。
問題は「鉄道の速度と輸送量の性能が、三陸地域に必要か」であろう。JR東日本がBRTを提案したのは、鉄道による輸送量が見込めないからだ。三陸鉄道の鉄道復活を批判し「BRTでもよかった」という意見も同様だ。確かに、現在の三陸地域の輸送量は少ない。鉄道の性能は過剰かもしれない。しかし、これらの意見は近視眼的である。過去と現在しか見ていない。あるいは三陸地域を「被災により人口が減り、今後も過疎が進む」のように考えている。私はこれらを、三陸地域を見下した考えた方だと思う。
三陸地域は、海産物が豊富で海岸線の景観はすばらしい。2014年4月現在は被災地視察ツアーなどで盛り上がっているようだが、それが落ち着いたとしても、観光需要を掘り起こす要素は多い。産業面においても、養殖業、水産加工業など、仙台または首都圏向けの需要がある。最近は潮力や波力による発電手段など新エネルギーの実験も行われているそうだ。交通インフラが整えば、新しいビジネスの掘り起こしも期待できる。
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