長崎新幹線「フリーゲージトレイン」に期待する真の理由:杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)
長崎新幹線への導入を目指す「フリーゲージトレイン」の新型試験車両が公開された。日本の鉄道網の特殊性ならではのプロジェクトだが、新幹線やリニアと同じくらい重要なプロジェクトになる可能性を秘めている。成功の鍵はユーラシア大陸にある。
長崎新幹線にフリーゲージトレインは必要か
鉄道ファンとしては新路線の開業を楽しみにしているし、新技術を搭載した車両も興味深い。
しかし、新幹線の効用を考えると、長崎新幹線とフリーゲージトレインの組み合わせには矛盾がある。そもそも、長崎新幹線の現在のプランも疑問視する声が多い。在来線区間があるせいで速度は遅く、博多─長崎間の所要時間は現在の在来線特急「かもめ」に対して28分しか短縮できない。たった30分にも満たない効果に対して、長崎県内の区間だけでも約5000億円の建設費が必要だ。佐賀県はもっと厳しい見方をしており、博多への時短効果がほとんどないため、新幹線規格路線の建設費用は負担しない方針である。
長崎新幹線の効用は、博多─長崎間だけではない。鹿児島ルートが新大阪から直通しているように、長崎新幹線も山陽新幹線に乗り入れたらいい。それなら従来の乗り換えの不便が解消される。鹿児島ルートは九州島内の利用は停滞している一方で、山陽新幹線からの直通列車は好調という。ならば、長崎新幹線も山陽新幹線直通列車を設定すべきだ。
しかし、長崎新幹線の山陽新幹線への乗り入れは難しい。その原因はフリーゲージトレインである。JR西日本がフリーゲージトレインの山陽新幹線乗り入れについて否定的な見解を持っている。フリーゲージトレインは台車の機構上、車体が重く、山陽新幹線の保守負担が大きくなる。そして、現在の試作車は新幹線内の最高速度が時速270キロで、山陽新幹線内のほかの列車に対して遅い。ダイヤ設定上、乗り入れは困難とのことだ。
新大阪方面から新幹線で長崎へ向かうとしても、結局は博多で乗り換えなくてはいけない。そうなると長崎新幹線のメリットは薄い。佐賀県が協調してくれないのでフリーゲージトレインで解決したけれども、そのフリーゲージトレインが長崎新幹線の足を引っ張る形になっている。これでは長崎新幹線は成功しない。
佐賀県の佐賀─博多の時短メリットを疑問視する考えは理にかなっている。しかし、佐賀─新大阪方面の直通メリットを考えてほしい。長崎新幹線は全線新幹線規格で作り、山陽新幹線と直通運転すべきだ。
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