長崎新幹線「フリーゲージトレイン」に期待する真の理由:杉山淳一の時事日想(3/4 ページ)
長崎新幹線への導入を目指す「フリーゲージトレイン」の新型試験車両が公開された。日本の鉄道網の特殊性ならではのプロジェクトだが、新幹線やリニアと同じくらい重要なプロジェクトになる可能性を秘めている。成功の鍵はユーラシア大陸にある。
北陸新幹線、四国新幹線でもフリーゲージトレインを検討
JR西日本はフリーゲージトレインの山陽新幹線乗り入れに否定的だ。しかし、フリーゲージトレインそのものには興味を持っている。2012年9月には、すでにフリーゲージトレインを実用化しているスペイン国鉄と技術連携を始めている。その理由は長崎新幹線ではなく、北陸新幹線だ。
北陸新幹線は2015年3月に長野─金沢間が開業する(関連記事参照)。金沢から西へは、敦賀までの建設が決定している。しかし敦賀と大阪を結ぶルートが決まっていない。2014年4月現在、大阪─金沢・富山間は直通の特急「サンダーバード」が設定されている。繁忙期は30分間隔で走っており、需要が高い区間である。しかし、北陸新幹線の開業によって大阪─富山間は金沢乗り換えを強いられる。今後、敦賀まで開業すると、大阪─金沢間の利用者も敦賀乗り換えとなる。到達時間は短縮されても、乗り換えという不便が生まれる。フリーゲージトレインを導入すれば、金沢・富山─大阪間に直通列車を運行できる。
もうひとつ、フリーゲージトレインを検討する路線がある。四国横断新幹線だ。山陽新幹線の岡山から分岐し、高松、高知を結ぶルートである。すでに瀬戸大橋は新幹線も建設できるように作られている。フリーゲージトレインを導入すれば、高知までの建設費用を圧縮できるし、愛媛県の松山駅や徳島県の徳島駅へ直通列車を設定できる。フリーゲージトレインの初代試験車と2代目試験車が四国で実験を続けた理由も、四国横断新幹線を考慮したからだ。
ただし、四国新幹線については、JR西日本がフリーゲージトレインの山陽新幹線乗り入れを拒めば実現の可能性は低い。また、四国4県とJR四国、四国の経済団体が参加する「四国の鉄道高速化検討準備会」は4月18日、岡山─高知、松山─高松─徳島の十字型に新幹線を建設した場合の事業費と経済効果の試算を発表した(関連リンク参照)。数字の上ではフル規格新幹線の実現性は高い。この動きが進むと、四国ではフリーゲージトレインの出番はなくなる。
フリーゲージトレインが必要な理由
長崎新幹線の採用を目標とした第三次試験車両は、ほぼ実用段階に入ったといえる。ただし、JR西日本が懸念するように、台車の重さについては改良が必要だ。この点は解決の道筋がある。川崎重工が世界初の炭素繊維強化プラスチック製の台車を開発し、熊本電鉄で採用された。川崎重工は前述したフリーゲージトレインの第三次試験車両を製造した会社である。
また、新幹線と在来線区間では架線電圧の違いからパンタグラフの仕様が異なる。在来線直流電化区間に乗り入れるためのパンタグラフはまだ実現できていない。ここは第三次試験車の電装部品を手がけた東芝の技術力に期待したい。フリーゲージトレインの全国展開のためには、台車とパンタグラフの問題を解決し、あわせて最高速度時速300キロを目指し、雪害対策を考慮した第四次試作車が必要だ。
日本の鉄道網は在来線規格、世界的に見れば狭軌で整備された。しかし、輸送量と速度に限界があるとして、世界標準軌間で新幹線が作られた。フリーゲージトレインは日本ならではの特殊事情の産物である。実用化すれば、既存の新幹線と在来線との連携がいっそう進む。フリーゲージトレインは日本の鉄道網を刷新する可能性を秘めている。
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