羽田の人気空弁「こめて KOMETE」──厳選ライスバーガーに込めた、ウマさの理由:東北発! 震災から生まれた21世紀の逸品(3/4 ページ)
東日本大震災を機に生まれた、知られざる「逸品」とは──。東日本大震災から3年、東京・羽田空港にお目見えした空弁「こめて KOMETE」が人気だ。東北の各地から集めたこだわりの具材を用いたこの商品は、いわれのない風評被害をはね飛ばすべく、福島や東北の魅力や生産者の現況を発信する“メディア”として開発された。
安全確認された食材を「強み」に変えて発信
食材へのこだわりは中身だけではない。バンズに使われるコメも、福島県産を使用している。それにしてもなぜコメ。しかも、ライスバーガーなのか。契機は、「福島第一原発事故発生以来の県産品への風評被害」(鈴木氏)という。
福島県いわき市出身の鈴木氏。製氷会社を営む実家は津波に工場や事務所など全てを流された。辛くも残った在庫は、放射能の影響は一切なしと、安全が確認されたにも関わらず風評被害を受けた。
自身が経営する47PLANNINGも風評のあおりを受けた。都道府県の数を社名に冠し「全国の地域ごとの魅力を発信することで日本を元気する」(鈴木氏)ことを目指す同社。直流通を基本に福島の食材を発信しようと東京・杉並区に準備していた飲食店「47DINING福島」は、開店を目前に震災にあい、海産物の水揚げが止まったことなどから開店の延期を余議なくされた。ようやく調達の目途が立ったと思えば、風評被害もはびこった。当時、社内からも「別の県をテーマにするほうがいいのでは」と声もあがるほどだった。
「ここで開店をやめたら、福島県産の食材には不安があると認めるようなもの」と、鈴木氏は店のテーマを変えず、店舗開店に踏み切った。同時に「復興を加速させるには経済の活性が不可避」と考え、いわき駅前で復興飲食店街「夜明け市場」も作り、県産の食材の使用を積極的に進めた。そんな鈴木氏にとって、全量検査を受けてすら県の主要産品の一つであるコメが売れないという話は、もはや他人事と看過できる話ではなかった。
福島県産のコメは2014年現在、全量全袋検査を実施、食品衛生法が定める放射性物質の基準値100ベクレル/キロ以下であることを確認したうえで出荷されている。検査の必要量があまりに膨大なため、現地では「終わった頃には新米が新米でなくなってしまう」と冗談まじりにいう人もいる。だが、そこまでしても購入をためらう消費者や企業は、震災から3年を経た今もまだ多い。福島県商工連合会が2013年末に行った首都圏の消費者を対象に実施した調査によると、「福島県産食品を買わない」と答えた人は全体の3割を超えた。また、消費者庁が2014年3月に発表した調査でも、15%が「同県産食品の購入をためらう」と答えている。
そんな福島産のコメをなんとかして流通させたい。鈴木氏らが考えたのが「世界一安全なライスバーガー」の企画だった。
サンプル検査ではなく一つひとつ検査して安全性を担保し、それを売り物にまずは海外に輸出する。日本や福島の魅力を海外の人に知ってもらい、雇用も創出する。商品が流行したら日本に逆輸入すればいい。外国人にも食べやすい形状と言えばバーガーだ。
企画が動き出した2011年当初、鈴木氏らが考えていたのは、1個で満腹にさせる量のフルポーション型バーガーだった。試作品を持ち、有力視していたシアトルだけでも6回も訪れたが、「味はいいけど日本での実績がないとね……」と反応は厳しかった。しかも「どんなにがんばっても売価約500円で、原価率は50%」。自前の店舗ではコストがかかりすぎるからと高級スーパーなどに販路を求めたが、利幅が薄いため、魅力的に感じてはもらえなかった。
活路が開いたのは、2013年7月。試作を持ってまた米国に出向いた際だった。「スライダー」と呼ぶ小さなサイズのハンバーガー商品と出会い、「これだ」と思った。女性も手に取りやすいライスバーガー。贈答品にもなるライスバーガー。サイズを小さくして、一つひとつの付加価値を高める。食べるシーンを変えることで、原価率の問題を解消しつつ、客層も広げられることが分かった。
その後はとんとん拍子だった。レシピは、天厨菜館料理長の山野辺仁氏が名乗りをあげ、試食は京都吉兆の徳岡邦夫氏や辻調グループの辻芳樹氏ら、そうそうたる顔ぶれが協力してくれた。パッケージは人気のみやげ物「ハッピーターンズ」や「東京ばなな」などを手掛けるミックブレインセンターが担当し、結果、空弁としての採用が決まった。
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