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『美味しんぼ』の“鼻血描写”は本当に風評被害を助長するのか?窪田順生の時事日想(2/3 ページ)

漫画『美味しんぼ』が炎上している。作品の中で、鼻血や疲労感と放射線を関連づける発言が出ていることを受け、大騒ぎになっているが、“鼻血描写”は本当に風評被害を助長することになるのか。

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最近の「作品叩き」


スピリッツ24号掲載の『美味しんぼ』について、編集部がコメント(クリックして拡大)

 このような経験もあるので、『美味しんぼ』が叩かれるのもしょうがないと思う。しかしその一方で、「デマの拡散を阻止せよ」とか「見せしめにリンチしましょう」とか騒ぐほどの話でもないとも感じている。

 鼻血がタラーという描写がアウトならば、震災直後の2011年、『朝日新聞』の連載「プロメテウスの罠」の中で「我が子の鼻血、なぜ?」という記事はもはや「犯罪」と言ってもさしつかえない。確か、原発事故後、子どもの鼻血が止まらないという東京都町田市の主婦が登場していた。青年コミック誌のグルメ漫画より、原発事故報道で新聞協会賞までとった本連載のほうがどう考えても社会への影響力がある。こっちをスルーして漫画だけを叩くことに違和感を覚える。

 前町長の発言が問題だとか言うけれど、反原発集会や国会前でワーワー言っている人たちは、もっと過激なことを言っている。前町長にしても、『美味しんぼ』に登場するからといって途端に話を盛ったわけではなく、平時から“問題発言製造機”ともいうべき御仁なのだ。例えば、2013年の参院選に「みどりの風」より立候補しているのだが、その街頭演説ではこんなことをおっしゃっている。

 「2011年地震津波のあった年の3月3日に、地震津波があることを日本政府は知っていたんですよ」

 つまり、今回いたるところで「風評」だとワーワー叩かれていることなど、ずいぶん前から特定の主義主張の人々によって「事実」として広められているのだ。そんな手垢(てあか)のついた話がなぜ『美味しんぼ』に出た途端に批判の嵐にさらされたのかといえば、最近の「作品叩き」と決して無関係ではないだろう。

 STAP細胞の小保方さんをパロった「阿保方さん」のコントが中止になったことも話題になったように、最近の世の中、特にネットの世界で「表現」に対してイチャモンがつけられている。

 なんてことを言う私自身も『明日ママがいない』問題では配慮を求めるべきだというようなことをこの連載で書かせていただいたが(関連記事)、あれはちょっと次元が違うと思っている。テレビは国家から認可を受けた公共性の高い報道機関だ。それに加えて、養護施設に来る子どもの半数が、虐待などで心に傷を負っているという現実もある。いくら三上博史さん演じる施設長に、最終回で感動的なセリフを言わせたいとはいえ、「社会の公器」ならば残虐シーンを自制するのと同様、虐待をフラッシュバックさせるような描写を避けるというのは当然だからだ。

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