「セウォル号事故」で韓国が日本の支援を断ったのは「反日」だからではない:窪田順生の時事日想(1/3 ページ)
「セウォル号」沈没事故で、韓国政府が日本からの支援を断った。誰がみても「支援を受けたほうがよかった」状況なのに、なぜ韓国政府は受け入れなかったのか。それは「反日だから」という理由ではなく……。
窪田順生氏のプロフィール:
1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。
「セウォル号」沈没事故で、韓国政府が日本からの支援を断ったことが、国内外で物議を醸している。事故直後の16日、海上保安庁が韓国の海洋警察庁に救助活動の支援を打診したところ、こんな回答があったらしい。
「申し出はありがたいが、現在、特段支援を要請する事項はない」
だが、その後の海洋警察の失態続きからはとても「間に合っています」という状況ではなかったことはご存じのとおりだ。内部に侵入した、酸素を注入した、というウソ発表を連発。行方不明者家族の怒りもピークに達し、「なぜ日本の支援を拒絶したのか」と海洋警察幹部に食ってかかる人まで現れた、と韓国のニュースでも大きく報じられた。
誰が見ても「支援を受けたほうがよかった」的な状況から、愛国心溢れる方たちの間から「国民の命より反日優先なのか」とか、「つまんねえ意地を張ってんな」なんて意見が続出したが、そんなくだらない理由で支援は断らないだろう。とはいえ、一部メディアが推測しているような、現場海域が荒れていて海外からの支援が来ても混乱するだけだとか、海保が足手まといになるからだとかいう理由はもっとピンとこない。
1996年に海洋水産部の外庁として独立した韓国の海洋警察庁は、当初は海保と比較できないほど小さな組織で、排他的経済水域の拡大にともない海保を“脅威”ととらえることで予算と設備を拡大してきたという経緯がある。そのあたりは海上保安大学校の研究報告のなかにある「韓国海洋警備を取り巻く政治力学」で詳しく触れているが、海難事故や潜水技術でも1日の長がある海保が“足手まとい”呼ばわりされるいわれはないし、そもそも海洋警察とは、こういう事態を想定して関係を築いてきたという実績もある。
実は、海保が事故直後に支援を申し出たのは、いい子ぶったからではない。韓国の海洋警察とは過去9回、海難事故の合同訓練を実施しており、2013年11月にも釜山港の近海で旅客船が火災を起こし乗客が海に転落したという想定で訓練を行っているのだ。
そこから半年も経たず想定していたような海難事故が起きた。これで支援を申し出ないほうがどうかしているし、普通は相手も受け入れる。にもかかわらず韓国は「間に合ってます」と言ったのだ。こういう状況を考えれば、韓国が日本からの支援を断った理由は1つしかない。それは、「この領海内に入ってきて欲しくない」ということだ。
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