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『美味しんぼ』の“鼻血描写”は本当に風評被害を助長するのか?:窪田順生の時事日想(3/3 ページ)
漫画『美味しんぼ』が炎上している。作品の中で、鼻血や疲労感と放射線を関連づける発言が出ていることを受け、大騒ぎになっているが、“鼻血描写”は本当に風評被害を助長することになるのか。
人間の本質はそんなに変わらない
いずれにしても、このような風潮が今回の『美味しんぼ』バッシングへ結びついた可能性は否めない。ただ、この手の「作品叩き」というのは昔からあった。例えば、今でこそ「マンガの神様」と呼ばれる手塚治虫だって、かつては『美味しんぼ』の原作者・雁屋哲氏同様、「インチキ話をふれまわるな」とバッシングを受けていた。ロボットがしゃべったり、クルマが空を飛んだりという荒唐無稽な「デマ」をふれまわる悪人として、全国の主婦から有害図書だと激しく排斥されていたのだ。
バッカじゃないの、というのは50年が経過した今だから言える。
当時の大人たちは大真面目で、「科学的根拠に基づかないデマ」として全力で手塚漫画を潰しにかかった。「日本子どもを守る会」や「母の会連合会」などは検閲を要求、さらに「悪書認定」された漫画を校庭で焚書(ふんしょ:書物を焼却すること)するというナチスドイツみたいなことまでやってのけた。
「科学的根拠」なんて50年でガラリと変わるが、人間の本性はそんなに変わらない。だから雁屋さんを見せしめに吊るし上げろ、なんて言い出す人が現れるのもよく分かる。軍靴の音が聞こえる、みたいな脅しには辟易としているが、今回のこの騒動は、この国がいつでも「ファシズム」に戻るかもしれないということを教えてくれている。
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