部下を育てられない上司は評価されない――「全員リーダー」を実現するGEの人材育成法:企業家に聞く【安渕聖司氏】前編(1/4 ページ)
世界最大のコングロマリット、ゼネラル・エレクトリック。変化の激しい時代でも成長を続けるコツは、人材育成にあるという。一般的な外資系企業のイメージとは異なる、GE流の人材育成、それを実現する文化と仕組みに迫る。
GE――ゼネラル・エレクトリックという会社を知らない人は少ないだろう。あの発明王トーマス・エジソンが、1892年に設立した世界最大のコングロマリット(複合企業)で、その事業範囲は航空機エンジンから金融事業までと多岐にわたる。「シックスシグマ」(統計分析や品質管理手法を使用し、業務のパフォーマンスを測定・改善する経営改善方法論)などの経営コンセプトを世に広めた、ジャック・ウェルチなど名物経営者を輩出することでも有名だ。
一方で、この巨大企業が120年以上の長きにわたり、どのように運営されてきたかという実情は意外に知られていない。そこで、今回は『GE世界標準の仕事術』を出版した、GEキャピタル社長兼CEOの安渕聖司氏に話を聞いた。
安渕聖司氏プロフィール
日本GE株式会社代表取締役、GEキャピタル社長兼CEO。1979年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、三菱商事に入社。1990年、ハーバード・ビジネススクールMBA修了。ビジネススクール在学時には、DeNAの創業者である南場智子氏と同期だったという。
UBS証券会社への転職を経て、2006年にGEコマーシャル・ファイナンスにアジア地域事業開発担当副社長として入社。2007年、GEコマーシャル・ファイナンスジャパン社長兼CEOに就任。2009年にGEキャピタル社長兼CEOに就任し、日本の金融サービス事業全般を統括している。
なぜ、今「GEの仕事術」が必要とされているのか
――『GE世界基準の仕事術』は、GEという会社のシステムや、長所が余すことなく詰め込まれている印象を受けました。さまざまなビジネスパーソンにとって学べる点が多いと感じた半面、一般的には巨大企業GEの“仕事術”は「自分には関係ない」と考えてしまう読者も多いのではないでしょうか。
安渕: 日本の市場が縮小していく一方で、グローバル化が進んでいることを実感する人は増えているはず。その中で競争に勝つにはどうすればよいか、そのために必要な人材をどう確保し、育てればいいのか……こうしたことに悩む人は多いと思うのです。
120年以上の歴史を持つGEは、こうした環境の変化にこれまで何度も直面しましたが、グローバル化とイノベーションで市場に残り続けてきました。私たちがこれまでやってきたことは、これから日本のビジネス環境が変化するにあたって、役に立つだろうと。
私自身は三菱商事、UBS証券で勤め、GEには50歳になって入社しました。日本企業と外資系企業の両方で長く働いた私にとっても、GEでの体験は驚きの連続でした。特に人材に対する考え方が確立しており、その要となるリーダーシップの育て方がシステムとして用意されている。「なるほど、こんなやり方もあるのか」と、読者がそれを追体験し、本書をきっかけに少しずつ新しい方法を取り込んで、自分自身あるいは会社そのものを変えていく。その一助になればと考えています。
――確かにGEは“外資系”“巨大企業”という言葉から受けるイメージ、例えば、短期での成果主義、実力主義で弱肉強食、人材が次々と入れ替わる組織――とは異なりますね。CEOが120年で9人しかいないことにも驚きました。
安渕: しかも、その9人が全員社内の人間ですからね。社内でリーダーを育てることにとても力を入れている。当然、次のCEOも社内から出るでしょう。それが当たり前の組織なのです。書籍の中で私はこういった組織形態を「劇団型」と呼んでいます。
今、多くの企業は「ブロードウェイ型」になっていて、上演ごとにオーディションで役者が入れ替わり、有能な人材(=看板役者)もその都度変わるのが当たり前です。でもGEはそうではない。生え抜きの人材が育っているし、仮に事業売却などで外部に出たとしても、またGEに戻れる。
GEは巨大な企業複合体ですが、“ワンカンパニー・ワンカルチャー”という考え方を貫いています。どの事業部、どのグループ企業でも文化や考え方は同じ。そのための工夫や仕掛けが備わっており、どこにいても皆、GEに所属することに誇りを持って働いています。これが、競争力や事業継続の源泉になっているわけです。
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