自分の才能に出会う「旅」――日本GEトップに聞く、グローバル企業で働く醍醐味:企業家に聞く【安渕聖司氏】後編(3/4 ページ)
GEキャピタル社長兼CEO、安渕氏へのインタビュー。後編はグローバル化や英語学習について安渕氏がどのように考えているか、そしてGEという組織の“強さ”の秘密に迫る。
人と事業の流動が組織を強くする
――GEには、人が海外に出やすい仕組みはあるのでしょうか?
安渕: 海外に出る“機会”という点では、GEは社内の空きポジションを検索して応募できる制度を用意しています。日本で働いていても、例えば米国にエネルギー関連の仕事があるかなど、いつでも探すことができる。2年以上勤務していれば、上司の承認がなくても応募が可能です。ですから、上司は優秀な部下が次にどんなことをしたいのか把握しておかないと、ある日突然いなくなって困る、ということになりかねません(笑)。
――上司からすれば気を抜けませんね。
安渕: 人事評価のマトリクスも頭に置き、当人ともコミュニケーションを取りながら、しっかり人員計画を立てておくことが重要になってきます。業績に直結する問題ですから。
1つのグループ会社、1つの事業部門だけを考えれば、ある意味面倒な仕組みですが、優秀な人には道を開いてあげた方が、結果的にグループ全体の活性化が図られ、成長を続けることができる。人材の流動が避けられなくなる仕組みが整えられているのです。優秀な人材を輩出する部門は、「あそこなら自分はもっと成長できる」と評価されることにもつながります。結果としてリーダーやその部門自体の評価も上がり、逆に優秀な人材が集まってくるわけです。
GEでは、書類のフォーマットや使用する用語を全世界で統一しています。別グループの人間とコミュニケーションを取るにもスムーズですし、別の組織に移ってもすぐ仕事に取り組める。そういった仕組みもこの制度を支えています。
――人材だけでなく、組織や事業そのものも常に変化させていることに改めて気づかされました。創業事業である電機も例外ではなく、収益があっても売却し、次世代の事業開拓のための原資とすることもあると。
安渕: 事業のポートフォリオをどう見直すか、それに対するスピードと実行力はGEの大きな強みだと思います。GEは何か特定の事業をやるための会社ではないのです。時代に応じて、自分たちが一番うまく経営できるビジネスは何か、という観点から事業を組み替えてきました。
例えば、1985年に買収した米国のテレビ事業(RCA)ですが、1987年にすぐ売却しました。これは、日本勢がすぐに追いついてくる、ここで勝負しても意味がないと決断したためです。
――現在、日本企業がテレビ分野において韓国勢に対して苦戦しつつも、この市場にこだわっていることを考えると対照的ですね。
安渕: ワンカンパニー、ワンカルチャーという基本的な考え方があればこそですね。特定の事業部の利益にこだわったり、事業部ごとに文化が違ったりといった事態をなるべく排除してきたことが功を奏していると思います。
GE全体の5〜10年先を考えたら、この事業は価値が高いうちに外に出し、自分たちよりもうまく回せる人たちに任せて、自分たちは得意なこと、未来につながることに注力していこうと。「次に何をすべきか」を常に変化させてきたので、そこにためらいがない。もちろん事業売却だけでなく、R&Dへの投資も重視しています。売却はその原資でもあるのです。
関連記事
- 企業家に聞く【安渕聖司氏】前編:部下を育てられない上司は評価されない――「全員リーダー」を実現するGEの人材育成法
世界最大のコングロマリット、ゼネラル・エレクトリック。変化の激しい時代でも成長を続けるコツは、人材育成にあるという。一般的な外資系企業のイメージとは異なる、GE流の人材育成、それを実現する文化と仕組みに迫る。 - グローバル化と国際化ってどう違うの?
近年よく使われるようになったグローバル化(=globalization)という言葉。かつては国際化(=internationalization)という言葉の方がよく耳にしましたが、それが入れ替わった背景を考えると、今のビジネスの流れも見えてくるのです。 - 人の心をつかむ、「エレベータースピーチ」とは
わずか30秒で人生を変えるスピーチとはどんなものなのでしょうか? まずはエレベータースピーチとは何か、どういう構成なのか、どう作ればいいのかを学ぶことから始めましょう。 - 米国と日本、会議に対する意識の違いは――コンファレンスコーディネーター・田中慎吾氏(後編)
「会場は軽井沢のリゾートホテルで。ゴルフでもプールでも、自由時間は好きに過ごしていいですよ」――田中氏が手がける研修は参加者だけでなく、企業からも「また使いたい」と好評だという。コンファレンスビジネスとはどのような仕事なのか? その成り立ちや日本での展開を聞いていく。 - 外資系企業、非情な“クビ切り”の実態
「外資系企業=クビ切り」といったイメージがあるが、実態はどうなっているのだろうか? 全従業員の下位10%になればクビという米GEや、そのほか投資銀行や戦略コンサルティング業界のクビ切りの真相について、関係者から話を聞いた。 - 連載「マッキンゼー流仕事術」
- 連載「朝シフト仕事術」
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.