世界中から“同情”されるベトナム、でも結局中国には「勝てない」:伊吹太歩の時事日想(1/3 ページ)
南シナ海の権益をめぐる争いで、ベトナム国内では反中デモが起きるなど、対中国の警戒が高まっている。世界各国が中国に自制を呼びかけるなど、ベトナムを支持する動きはあるものの、結局はベトナムは中国に“負けて”しまうだろう。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
ここ最近、アジアで最も注視されたニュースはベトナムの反中デモだろう。中国による南シナ海での石油掘削が原因で起きた大規模デモの行方を、世界が注視した。
今さら言うまでもないが、中国による南シナ海への進出は、関係各国をいら立たせている。中国は共産党が一方的に設定した「九段線」(南シナ海において領有権を主張しているエリア)を根拠に、天然資源が豊富な南シナ海で天然資源を掘削するなど、勝手に開発を進めている。だが、南シナ海に接する国々は中国の主張を認めていない。
中国と領有権問題を抱えている南シナ海沿いの国々は、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、フィリピン、ベトナムだ。この中で中国と最も友好的なマレーシアですら、海軍基地を設置する対抗策を発表している。
インドネシアも自ら主張する海域で操業していた中国漁船を拿捕(だほ)し、中国が軍艦を派遣する事態になった。ブルネイは排他的経済水域や大陸棚の問題を抱える。何度となく小競り合いを演じたフィリピンは中国が勝手に南沙諸島の暗礁で滑走路建設をしていると非難しており、両国の関係はほぼ断絶している。
そしてベトナムだ。南シナ海で中国とベトナムの船がたびたび衝突するなど緊張が高まっている。ベトナム国内では、中国に抗議するデモが激化し、現地で働いていた中国人2人が死亡した。
ベトナムのグエン・タン・ズン首相は、普段とは違って当初デモを黙認し、国民に「すべてのベトナム人が愛国心を高め、法に沿った行動で祖国の神聖な主権を守るよう要請する」「悪い分子が、国のイメージと利益を損なうような過激な行動を駆り立てることは許されるべきではない」という携帯電話向けショートメッセージを送った。一方の中国当局は、人民にベトナムへの渡航を自粛するよう勧告し、在ベトナムの中国人が多数帰国した。
このように中国をめぐり南シナ海で緊張状態が高まっているが、この騒動を世界はどう見ていたのか。
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