世界中から“同情”されるベトナム、でも結局中国には「勝てない」:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
南シナ海の権益をめぐる争いで、ベトナム国内では反中デモが起きるなど、対中国の警戒が高まっている。世界各国が中国に自制を呼びかけるなど、ベトナムを支持する動きはあるものの、結局はベトナムは中国に“負けて”しまうだろう。
世界各国が中国に自制を求める
まずは欧州。ちょうどブリュッセルで日EU定期首脳会議(参考リンク)が行われていたのだが、EUの広報担当者は「ベトナム船と中国船の衝突が示すように、EUは単独行動が地域の安全保障環境に影響を及ぼすことに懸念を抱いている」とコメント。その上で「関係国に国際法、特に国連海洋法条約にのっとり平和的・協力的な解決を目指すよう要請する」と指摘した。これは独自路線で一方的な強硬手段に出る中国に対するやんわりとした牽制ととれる。
このコメントを受け、英国のヒューゴ・スワイア外務閣外大臣も、中国に対して「中国による係争水域での石油採掘装置の設置が、南シナ海の緊張を高めることになった」とし、「EUの声明を支持し、中国政府に閣僚レベルで問題を提起した」とのコメントを発表した。
バラク・オバマ大統領によるアジア歴訪でアジア重視政策を再確認した米国だが、過去の政権時代に比べても、相変わらず中途半端な反応だ。ジョン・ケリー国務長官は訪米から帰国したばかりのベトナムのファム・ビン・ミン外相に電話し、「中国の行為が挑発行為だとする見解で一致している」と伝えたという。
米国については、オバマが先のアジア訪問で、中国と南シナ海問題で対立する東南アジア諸国に“中国に屈することはない”という印象を与えていたと指摘する話も出ている。軍事力で中国に劣る東南アジアの国々にとって、米国の支持を取り付けられるかどうかは、特に南シナ海問題において今後の形勢に大きな影響を与える。
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長も、中国の動きに対して「関係国には最大限の自制を行い、対話や国際法にのっとって、平和的手段で対立を解決するよう求める」とコメントしている。潘事務総長の出身国である韓国も、日本と竹島の領有権をめぐって揉めているのは周知のことだが、ぜひとも事務総長という中立的な立場から、母国にも同じような指摘をしてもらいたいものである。
ベトナムのファム・ビン・ミン外相は、今回の中国の行為に対処するため、インドネシアとシンガポール、ロシアといった国々に電話を入れて協力関係の強化を求めた。インドネシアは「深刻な懸念」を表明し、世界で2番目にベトナムへ投資を行っているシンガポールは「ベトナムがシンガポール企業などを守る対策を行っている」と評価した。ベトナムと中国の両国と関係の深いロシアは、対話による解決を求めた。ベトナムにとって、これらの国は重要度が高いことがうかがえる。
関係国のメディアも、ベトナムに同情的な論説記事を掲載した。インドネシアのジャカルタトゥディ紙は「国際法で偏見のない2国家による解決を目指すべき」「暴力は暴力を生み、何の解決にもならない」と、強引な掘削を止めるよう促している。フィリピンのマニラタイムズ紙は、「フィリピン人は中国大使館前で、ベトナムの友人たちのために反中デモを行った」と書き、1979年の中越戦争のように人民解放軍がフィリピン人を殺そうものなら、「日本軍に抵抗したときのように立ち上がる」とかなり感情的だ。
関連記事
- 藤田正美の時事日想:中国はどこまでベトナムと争うのか――米国、日本も他人事ではない理由
中国とベトナムが南シナ海の権益をめぐって争っている。ASEAN首脳会議でも自制を求める宣言が採択されたが、中国はこれを無視する方針だ。このまま中国が南シナ海の覇権を奪取すれば、次は尖閣諸島に手を伸ばすだろう。 - 世界で一番、“中国の台頭”を心配しているのは日本人!?
世界には数えきれないほどの問題や課題が存在するが、現代に生きる人々は何を脅威に感じているのか。米国の調査会社が調査した結果を見ると、意外な結果が見えてくる。特に日本は、世界の国々とははっきりと異なる傾向があるという。 - 中国メディアで働くために必須の「政治思想テスト」をやってみた
情報統制が行われている中国では基本的に報道の自由はない。さらに国内メディア関係者の思想を統制するために、2014年からテストが義務付けられるようになった。その問題を見てみよう。 - オバマを「サル」呼ばわり、北朝鮮メディアの暴走が止まらない
世界のメディアから「世界で最も閉鎖された国」と呼ばれる北朝鮮。最近の北朝鮮メディアは、専門家が眉をひそめるほどの“暴言”の嵐だという。米国のオバマ大統領を「サル」と呼び、韓国の朴大統領を「慰安婦」とこき下ろす。まさに言いたい放題なのだ。 - 米国では、女性の5人に1人がレイプに遭っているという事実
最近、米国では大学内でレイプ事件がまん延し、政府が対策を迫られるほどの社会問題に発展していることをご存じだろうか。もはや、世界中のどこにいても、レイプの危険性を頭の片隅に置いておくべきなのかもしれない。 - 連載:伊吹太歩の時事日想 一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.