ウクライナ、エジプト、タイが世界を変える? 混乱だらけの国際情勢を読み解く:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
世界各地で独立運動やクーデターが立て続けに起こるなど、国際情勢は混乱が続いている。こうした動きは、米国の影響力が低下したことが原因だ。世界は一体どこに向かっていくのか、ウクライナ、エジプト、タイの3国がそのカギを握っている。
米国が恐れる“最悪”のシナリオ
強気な姿勢を崩さないロシアは、“世界最大の敵”であるシリア・アサド政権への支援も、イランとともに継続している。シリアでは、反体制派が最大拠点を政府軍に明け渡すなどかなりの劣勢を強いられており、もはや、アサド政権の勝利は目前という見方もある。
現在のシリアは大まかに言えば、アサド政権を支持するロシアとイラン、そしてレバノンの武装組織ヒズボラと、反政府派を支持するサウジアラビア、米国、欧州諸国という対立構造になっている。
しかし、最近になって穏健派政権が誕生したイランと、長く親米だったが反米に傾きつつあるサウジアラビアが接近しており、シリア問題が彼らのWin-Winで終結する可能性も出ている。もちろん、そこにはロシアが介在する。
中東ではサウジアラビア(イスラム教スンニ派)とイラン(シーア派)が、それぞれの宗派を代表する国として君臨する。両者はどちらも中東地域の覇権を狙ってきたため、サウジは米国と手を組み、イランはロシアなどと手を組んできた。シリア問題に米国は積極的に関与しなかったこともあり、両者の関係が良くなれば、中東における米国の影響力はさらに低下するだろう。
そうなると立場が難しくなるのは、5月26〜27日に大統領選挙が行われた親米のエジプトだ。国民の力による「アラブの春」で軍主導国家を崩壊させたはずなのに、今週行われた大統領選挙で、アブデルファタフ・シシ前国防相が勝利し、軍部の統治が公式に完全復活する。米国と離れつつあるサウジと反米イランが接近する中東情勢を考えれば、親米のエジプトは米国との関係を考え直すかもしれない。エジプトは米国から多額の援助金を受け取っているが、カネならサウジやロシアだって出せるのだ。
エジプトが米国と距離を置けば、次はイスラエルの立場が危うくなる。中東アラブ諸国でイスラエルと国交を樹立しているのは、エジプトとヨルダンだけだ。サウジなどアラブ諸国が団結し、イランも絡むことで、エジプトがイスラエルへの態度を硬化させることも考えられなくはない。まるでドミノのように中東諸国が次々と米国から離れていく――これが米国が最も恐れるシナリオだ。
ちなみに、イランを爆撃すると息巻くイスラエルの扱いに米国は苦慮している。だからこそ、米国は反イスラエルの色を出していたムスリム同胞団のムハンマド・モルシ前大統領(2014年にエジプト軍が正当な選挙で勝利して成立した)を反民主的に引きずり降ろした際に、明確に反対を示さなかった。
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