売春、密輸、麻薬――“アングラ経済”で世界のGDPランキングが変わる(かも):伊吹太歩の時事日想(1/3 ページ)
欧州でGDPの算出方法が変わろうとしている。売春や麻薬といった違法な経済活動で発生したカネもGDPに含めるという。こういった“アングラ経済”は私たちが思っているよりも規模が大きく、各国のGDPが一変する可能性があるのだ。
著者プロフィール:伊吹太歩
出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
EU(欧州連合)は2014年9月から、2010年度版「ヨーロッパ共同体の統合経済勘定体系(ESA)」で定めるGDP(国内総生産)算出基準が義務付けられる。簡単に言うと、EU加盟国はこれからGDPに地下経済の取引も含めなければならなくなるのだ。
“地下経済”という言葉になじみのない人にはピンと来ないだろうが、これは、正式な統計の範囲外で行われている違法な経済活動のことで、アングラ経済とも呼ばれる。2010年度版のESAでは「違法な経済活動は取引と見なされるべきだ。泥棒は違うが、違法薬物や盗品の購入、販売、交易は取引と見なされる」と記されている。
これまで、スウェーデンやフィンランド、オーストリアやノルウェーを除くほとんどの国では、こうした違法な経済活動をGDPに算定してこなかった。だが、今回の基準変更によって、GDPで見る世界の経済勢力図が変わる可能性がある。
売春や麻薬取引をGDPに含める是非
地下経済について話す前に、GDPの定義を復習しよう。経済産業省によると、GDPとは「1年間で新しく生み出された生産物やサービスの金額の総和であり、国の経済の力の目安によく用いられる」(参考リンク)ものだ。経済成長率がGDPを基にした数値である(GDPの前年比)ことからも、GDPは世界各国の経済動向を見る上で欠かせない指標と言える。
ESAの狙いは、EU加盟国の間で発生している“GDP統計の矛盾”を是正することだ。例えば「売春」。ドイツやオーストリア、ギリシャといった国々は売春が合法なので、当然、売春による経済化活動もGDPに含まれる。しかし一方で、売春を違法としている国では、売春で発生したお金はGDPにカウントされない。
売春が違法の国でも、売春行為は現実に行われているはずだ。そうなると、売春を違法として経済活動に含めてこなかった国々のGDPは、合法の国よりもその分だけ低くなってしまう。経済活動の実態を反映していない(公平ではない)ことになる。
売春以外では、麻薬の取引もある。オランダでは大麻の販売がコーヒーショップなどの収益としてGDPに含まれてきた。だが、大麻の取引が違法となっている国でも、大麻に関する経済活動は行われており、その金額も大きい。違法であれ合法であれ、こうした活動をGDPに含めることで、経済指標としての正確さも上がる。
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