……えっ、靴買いに行ったんじゃないの?:女性脳と男性脳の論理(3/3 ページ)
ビジネススクールで論理思考を教える“男性脳”の筆者が、摩訶(まか)不思議な存在である女性と女性の脳を観察、分析する。今回のテーマは、「なぜ女性は靴を買いに行って服を買って帰ってくるのか」について。
「買いに行く」ではなく「買い物に行く」――そこに隠れた前提がある
ここまでの会話を通じて少し見えてきたのは、女性にとって「買わなければいけなくて何かを買いに行く」ときと、「買いに行くとき」は違う、ということだ。
- 「買わなければいけなくて何かを買いに行く」――対象のものを買いに行く
- 「買いに行くとき」――何かを買う
という感じだろうか。その2つに照らして男性の買い物の仕方を考えると、そうじゃない男性もいるのかもしれないけど、大体は「買わなければいけなくて何かを買いに行く」ということになる。言い換えると「男性の買い物」は「目的買い」となろう。
だとしたら、女性の場合は何なのであろうか? ここで、別のグループのインタビューにヒントを見つけたので、そちらも紹介しておこう。
溜田: マーケティングに関係することで聞きたいことがあって……。男性は「カバンを買いに行くよ」って言ったら、カバンを買いに行って買えないとイラッとするんだよね。だから、女性がカバン買ってくるって言って、洋服を買ってご機嫌で帰ってくると「なんで?」ってなっちゃう。
Yさん: あー、でも、カバンを買いに行って洋服を買ってくるっていうのはよくありますよ。
Fさん: イラっとくるんですか?(えっ、それって疑問なの? この感じ、伝わっていないんだ)
溜田: だって、なんでカバン買ってこなかったのって。(だから、イラっとくるでしょ?)
Yさん: だって、良いカバンがなかったんだから。なければ買わない。(うっ、それは分かる。さすがYさん、論理的だ)
溜田: 要するにショッピングが楽しいってことになるのかな。僕らがショッピングするときにはカバン屋に一直線に行って帰ってくる。でも女性はショッピングして、カバン屋に行くと言いながら行かないこともある。(そこが、理解できないんだけど)
Yさん: それはコミュニケーションの違いですよ。(えっ? コミュニケーション? 買い物じゃないの?)
男性は狩りに行く。目的を持ってそれを獲りに行くために出かけるから、いかに良いカバンを、自分のイメージに合ったものを手に入れられたかに達成感を得ていると思うんです。で、私もそういう買い方をすることはありますが、女性の場合は買い物に行くというよりショッピング、時間そのものを楽しんでいるのであって、もしかするとカバンは口実でしかない。外に出ていろいろものを見たいのであって、だからコミュニケーション上はとりあえずカバンと言っていますが、カバンでない可能性もあると思います。
Aさん: 「カバンが欲しいから買い物に行こうかな」っていうシンプルな発想だと思うんですよね。(え? シンプル??)
カバンが欲しいからカバンを買いに行くんじゃないんですよ。カバンが欲しいから買い物に行くんです。買い物なんです。カバンを買いに行くんじゃないんですよ、買い物に行くんですよ。(おぉっ、なんか違うことを言っているぞ。買い物に行く?)
買い物の中で、ウィンドウショッピングとかしながら「カバンが欲しいと思っていたけど、そういえばコートなかったな」とか。そこでもいろいろ情報処理しているんですよ。カバンを見に行ったつもりだったけど、「そういえば昨年に買った黒のスーツがそろそろいたんできてるから新しいスーツ買ったほうがいいかな。カバンに5万払うならスーツを買ったほうがいいかな」とか。
自分のワードローブを考えながら、「あのスーツを買うとしたら、インナーも違う形をそろえたほうがいいし、あっ、そういえば、今度、友達の結婚式あったな。年齢的にそろそろ膝下丈のほうがいいかな」とか。近々に起こるスケジュールとか、自分の変化とか、わーっとストーリーで考えながら。で、いろいろ考えた結果、「自分にご褒美で指輪買っちゃおう」とかなるじゃないですか。(えっ? ならないってば。すごいな)
でも、それはいきなり買ったんじゃなくて、自分の頭の中では、いろいろと処理しているんですよ。
インタビューの内容はまだまだ続くのだが、ここまでを整理するとしたら、大体こんな具合だろうか。
キーワードは「○○を買いに行く」のではなく、「○○を買いに行くのを口実にして、買い物に行く」という違いにあるわけだ。
- 仮説10:男性は、目的物を手に入れることを、買い物と呼ぶ「目的型」
- 仮説11:女性は、買い物に行くという行為そのものを、買い物と呼ぶ「プロセス型」
ということだ。すなわち、「買い物をする」という言葉は、男女で意味するところが違うわけだ。
こういう違いは男女間にかかわらず、実は至るところで起こっている。思考技術の世界でよく言われるところの、第2回でも登場した“隠れた前提”というものだ。双方が持っている暗黙の認識や根拠が異なるため、どこまでいっても話が噛み合わない。Yさん言うところの「コミュニケーションの違い」もここから来る。
そこでようやく、自分がこの問題になると、なぜ感情的になるのかが理解できた。毎度、こんな会話が脳裏に蘇ってくるからだ。
私: 買い物に行くの? 一緒に行こうか?
妻: 嫌。1人で行く。あなたと行くと、すぐ怒るから。
私: だって、時間かけ過ぎだろう。
妻: そういうこと言われるから、嫌なの。
私: ……。
これまでどうもうまくいかなかったのは、「買い物」に対する意味合いの違いに起因するのではないだろうか。だとすれば、解決策の1つは女性の側の“隠れた前提”に自分が寄りそうことだろう。ただ1つ、問題がある。果たして自分は、女性の考える「買い物」というものに、耐えられるのだろうか――。
そうだ、まずは「買い物」しに行こう! もちろん、プロセス型の「買い物」だ。ひょっとして、好きになれるかもしれない。そうすれば編集長のK女史よりも、「買い物」上手になれるかもしれない。そうなれば、今度こそ返り討ちにしてくれる!
(……はいはい。まぁ、やってみたらどうですかぁ。by“K女史”)
溜田信(ためだ・まこと)
東京大学工学部応用物理学科卒業後、日本アイ・ビー・エムに入社。銀行オンラインシステム担当のシステムズエンジニア&営業マネージャを経験。その後、外資系SIベンダー、マイクロソフトにおけるソリューションビジネスの経験を経て、戦略系コンサルティングファームA.T.カーニーに入社。メーカーの事業戦略・SIベンダーの営業戦略・組織改革、金融機関のIT戦略等、IT知識を持つ戦略コンサルティングプロジェクトに従事した経験を持つ。グロービスにおいては、マーケティングならびに思考系の講師を担当している。
関連記事
- 女心の分からぬ私が、女性脳について書くことになった顛末
ビジネススクールで論理思考を教える“男性脳”の筆者が、摩訶(まか)不思議な存在である女性と女性の脳を観察、分析する。女心も「マーケティングは愛だ!」も分からない私が、なぜこんなテーマでコラムを書くことになってしまったのか……。 - 別れた男のことは“きれいさっぱり忘れる”女心に潜む「隠れた前提」
ビジネススクールで論理思考を教える“男性脳”の筆者が、摩訶(まか)不思議な存在である女性と女性の脳を観察、分析する。女は一度別れた男のことはきれいさっぱり忘れ、男は未練がましい――というのは本当だろうか? - まるで“時限爆弾”――女性の「溜める」心理、その傾向と対策
ビジネススクールで論理思考を教える“男性脳”の筆者が、摩訶(まか)不思議な存在である女性と女性の脳を観察、分析する。今回は、筆者の背筋の寒くなる経験から、女性の「溜める」について。 - 「今日の私、なんか違わない?」――世の男性が経験する恐怖の質問
ビジネススクールで論理思考を教える“男性脳”の筆者が、摩訶(まか)不思議な存在である女性と女性の脳を観察、分析する。今回は、おそらく多くの男性が経験する恐怖の質問。「今日の私、なんか違わない?」から。 - なぜ人はウソをつくのか? 男女が別れる前に読む話
「彼女にウソをつかれた。それが嫌で、別れてしまった」という男性もいるだろう。なぜ人はウソをつくのか。そのメカニズムが分かれば、彼女のウソも我慢できたかもしれない。そこで心理カウンセラーの晴香葉子さんに、ウソにまつわる話を聞いてきた。 - 男女・年代別マーケティングは「もうできない」 マルチデバイス時代の情報行動5つのタイプ、Googleが分類
Googleがテレビ、PC、スマホの3つのデバイスを利用するユーザーを対象に行動分析し、情報接触行動を5タイプに類型化した。「F1層もM1層も、もういない」という。 - 「男女の友情は成り立つ」と思う人、どのくらいいる?
男女の友情は成り立つと思っている人はどのくらいいるのだろうか。20〜40代の独身男女に聞いた。リクルート ブライダル総研調べ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.