えっ、前の飛行機を抜いてもいいの? パイロットの知られざる世界:仕事をしたら“空”を飛べた(4/6 ページ)
パイロットといえばエリート中のエリートというイメージがあるが、飛行機を操縦しているときどんなことを考えているのだろうか。JALでボーイング777の機長を務める近藤さんに話を聞いたところ、意外な答えが返ってきた。
定時到着率、2年連続でトップ
土肥: 米国のFlightStats社が航空会社の定時到着率を分析していますが、JALは2年連続で1位(国内線・国際線の定時到着率が88.94%)でした。ゴマをするわけではないのですが、この数字ってスゴいと思うんですよ。というのも、ワタシがよく利用している航空会社は頻繁に遅れるんですよ。たまたま運が悪かったのかもしれませんが、肌感覚としては50%くらいの割合で遅れている。
近藤: 定時に到着するためには、何が大切だと思われますか?
土肥: それは飛行機のスピードでしょう。離陸したらとにかく目的地を目指して、ビューンと飛ぶ。
近藤: いえ、速く飛ぶことだけではないんです。一番大事なのは、お客さまが空港に来られて、お乗りいただくまで――この時間をできるだけ短縮させることなんですよ。例えば、貨物を積んでいる人は、お客さまがどのくらい乗っているのか、ということが分かりません。なので、担当者から「お客さまは、あと3人です」ということを聞いたら、パイロットは貨物の担当者にそのことを伝えなければいけません。「荷物どうですか? もうすぐお客さま全員が乗りますよ」と。そうすると、「スタッフの人数を増やして、早めに積みます」と言ってくれるんですよね。
1分でも早く飛行機を飛ばすためには、さまざまな関係者のチカラがなければできません。貨物の担当者だけではなく、搭乗口でチケットを切る人たちも努力してくれているんですよ。お客さまに「行ってらっしゃいませ」と言って、チケットを確認する。そして、全員が搭乗すれば、紙をプリントアウトして、それをチーフパーサーに渡さなければいけません。そのとき、担当者は紙を持って、全力で走ってくるんですよ。その姿を見ていると、「そんなに急いで走ったら、危ないよ」と思うのですが、とにかく走って持ってきてくれる。昔は、ゆっくり歩いている人が多かったのですが、最近ではそういった人はほとんどいません。
飛行機に乗っているお客さまは、こうした努力を見ることができません。しかし、私たちは、安全性を確保した上で「1分でも早く飛ばそう」と心がけています。
土肥: 先ほどから「1分でも……」とお話されていますが、そんなに1分が重要なのでしょうか。飛行時間が30分くらいなら、1分を短縮させることは難しいかもしれませんが、海外に飛ぶ便だと飛行時間が長いので、離陸前の1分の遅れくらいちょっと速く飛ばせば短縮させることができるのでは?
近藤: そう思われるかもしれませんが、離陸したあとに、予定時刻を1分縮めるのはものすごく難しいんですよ。例えば、1時間飛ぶ場合、効率的な高度を選んで、スピードを出して、航空管制に「ちょっと近道させて」とお願いしても、1分短縮させるのは大変。最優先しなければいけないことは「安全」なので、無理はできません。なので、離陸前の1分はものすごく貴重なんですよ。
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