東大の教授が、「医療詐欺」なる本で医療界を告発した理由:窪田順生の時事日想(3/4 ページ)
救急車のたらい回し、医師不足問題、製薬会社の不祥事――。こうした問題は、国家による「医療」コントロールが限界にきているからなのか。医療界の現実について、東大医科学研究所の教授が赤裸々に綴った本が出た。
新薬を開発するのがバカらしくなる
中医協とは、日本の医療行為にまつわる価格を決定している厚労大臣の諮問機関のことだが、こういう制度は他の先進国にはない。この日本独自の医療システムにこそ歪みの根っこはあると上氏は指摘する。
国家が価格を決めるので、製薬会社からどんなに素晴らしい薬をつくっても、すぐに価格が下がる。営利企業からすれば、リスクをとって新薬を開発するのはバカらしくなる。これで開発力が高くなるわけがない。事実、日本の新薬開発力は韓国に劣っている。
新薬を出さずにもうけようとするので、「マーケティング」に力が入る。医師にカネを渡して臨床論文をちょいちょいっといじったり、飲ませなくていい薬をじゃんじゃん飲ませたり、という問題は現れるべくして現れたというわけだ。
国が「価格統制」という絶対的な力を持つ。それに従う形で供給者(企業・医師)が食べていこうとする。癒着や口利きがまん延し、価格統制権に近いところがおいしい思いをして、水が高いところから低いところに流れるように一般ユーザー(患者)が一番わりを食う。
この構造を理解するのには、「電力」がいい。日本の電気料金は薬価と同様、電力会社という国策企業が総括原価方式というコストダウン意識ゼロのシステムで決められている。だから、再稼働だなんだというの話も、ユーザーの論理は関係ない。すべては「原子力ムラ」という供給者サイドの論理によって粛々とすすめられていく。医療界の構造的な癒着を、上氏が「医療ムラ」と呼ぶ所以だ。
原子力ムラを解体するにはこの「価格統制権」を奪う、つまり「電力の自由化」をすすめるべきという意見があったが、いつの間にやらうやむやにされた。
これと同じく、「医療ムラ」の解体には、「中医協」の力の根源、つまり価格統制権を奪うしかない。その第一歩となるかもしれないが、安倍政権が成長戦略で掲げた「混合診療」の解禁である。
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