業務提携ってどのように進めるの? JALの達人に“交渉術”を聞いてきた:仕事をしたら“交渉”が成立した(5/7 ページ)
「『業務提携』を担当する人って、厳しい交渉をしなければいけない……」といったイメージがあるが、実際のところはどうなのか。JALでコードシェアを担当している人に、他社との交渉術を聞いてきた。
タイ語を“武器”に
土肥: 出発時間が大幅に遅れると、航空会社からいろいろなサービスを受けられますよね。例えば、食事券であったり、宿泊チケットであったり。そういう部分で“違い”があったということですか?
カムチャイパイ: はい。両社の基準は違うので、それをどうすれば解決できるのか。難しい作業でした。
このほかにも、運休になったとき、振替便はどうするのか。そのとき、どこの予約センターが担当するのか。といった感じで、決めなければいけない項目はたくさんあるんですよ。そこでも、JALは「お客さまを最後までケアしたい」というポリシーがあるので、難しい交渉になりました。
土肥: 会社が違うので、それぞれの考えがあるのは仕方がないですよね。それをどうやってまとめられたのですか? ひょっとして、カムチャイパイさんはタイ語が話せるので、それを“武器”にされたとか?
カムチャイパイ: 実は、そうなんですよ。バンコク・エアウェイズと交渉するときには、「タイ語がしゃべれてよかったなあ」と思いました。基本的なやりとりは英語なのですが、細かいニュアンスを伝えるときには、タイ語で話しました。メールでやりとりをしているときも「どうもうまく伝わらないなあ」と思ったときには、電話をかけてタイ語で話していました。
土肥: 大阪出身の私も東京の人と話をするときに、たまに苦労するんですよ。先日も「ドイさん、大阪の人って『むちゃくちゃ』と『めちゃくちゃ』ってよく言うじゃないですか。その違いって何ですか?」と聞かれて(笑)。ましてや、英語とタイ語はかなり違いますよね(たぶん)。タイ語で話すことによって、どんなことがうまくいきましたか?
カムチャイパイ: 両社の交渉で最もねじれていたのが、料金の部分なんですよ。お金がからむと、どうしてもいろいろな問題が発生しまして。でも、タイ語で話すことによって、お互いの理解がより早くできました。
土肥: 「お兄ちゃん、ちょっと勉強してーや」と言われたら、「しゃーないなあ。昨日、阪神が勝ったから、安うしときますわ」といった感じですか?
カムチャイパイ: ですです(笑)。
土肥: 交渉で必要なのは、“親近感”ということですかね。
カムチャイパイ: それだけではなく、「相手を信頼すること」「思いやりの気持ちを忘れないこと」――この2つも大切ですね。
「先方がだましてくるのではないか?」という疑いの気持ちがあると、交渉はうまくいかないと思っています。もちろん、JALが先方を「だまそう」と思ってもいけません。
また、ビジネスの世界なので、価格交渉などの場面では、お互い譲れないこともあります。しかし、相手のことを思いやり、両社で満足できる交渉結果になることも大切ですね。例えば、JALにとって有利な結果になると、先方は不満を感じているかもしれません。そうした関係だと、長期的に良好な関係は築けないでしょう。
土肥: なるほど。話は変わりますが、提携交渉の場はどんな雰囲気なのでしょうか? 映画などでは、エラい人がスーツの胸ポケットから万年筆を取り出し、紙にサインする。そして、相手と握手する、といったシーンをよく見るのですが……。
カムチャイパイ: 昔はそうした署名式を行っていたのかもしれませんが、今は違います。基本的には、役員が署名をして、それを郵送で送ります。
土肥: あれ……意外とアッサリしているんですね。
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