ロシアへの経済制裁は“誰得”なのか:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
ウクライナ東部で発生している内乱が長く続いているが、事態収拾の道筋は見えない。欧州もロシアも互いに経済制裁を続けているが、両者の経済にじわじわとダメージを与えており、“我慢くらべ”のような状況に陥っている。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
ウクライナ情勢は日を追うごとに“きな臭さ”を増しているようだ。8月18日にウクライナ、ドイツ、フランス、ロシアの4者外相会談が行われたが、停戦に向けた進展はなく、人道支援でようやく合意しただけで終わった。
先週、ロシアから人道支援物資を積んだ280台ものトラックがウクライナに向けて出発し、国境近くに到着したものの、ウクライナが入国を拒否していた。問題は2つある。人道支援物資輸送という名の下に、親ロシア派武装勢力に対して武器などを供給するのではないかとウクライナ政府も欧米も疑っていること。さらに、この支援物資輸送隊が妨害されたとしてロシアが直接介入する口実になる可能性があることだ。
ロシア側は再三にわたってそうした意図がないと説明しているが、このトラックを運転している人員は「ボランティア」といいながら、全員が同じ服装(ベージュのTシャツと半ズボン)をしているらしく、兵士であることは一目瞭然だ。トラックがロシア軍の基地から出発していることも疑いに拍車をかけた。さらに“不測の事態”に備えて、ということでロシア軍は国境周辺に集結している。
こうした事態を受け、ウクライナ政府はNATO(北大西洋条約機構)に支援を求めるとされているが、NATOが軍事支援に踏み切る可能性は小さい。米国は空爆に限定しているとはいえイラクに出動している。オバマ大統領にとってこの上、ウクライナに出兵するのは厳しいと言わざるを得ない。しかも敵対する相手は核兵器を有するロシアだ。第二次大戦後の冷戦時代でも直接対峙したことのない大国と、場合によっては直接戦火を交えるなどという選択はオバマ大統領には考えられないことだろう。
それにシリアやイランという中東の不安定要因を考えれば、どうしてもロシアと敵対するわけにはいかない。ロシアと中国が今以上に接近するのも、米国にとってはあまり考えたくないシナリオだ。
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