ロシアへの経済制裁は“誰得”なのか:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
ウクライナ東部で発生している内乱が長く続いているが、事態収拾の道筋は見えない。欧州もロシアも互いに経済制裁を続けているが、両者の経済にじわじわとダメージを与えており、“我慢くらべ”のような状況に陥っている。
対露制裁でキズを負うEU
EU(欧州連合)側の事情はもっと複雑だ。ロシアと地理的に近いポーランドやバルト3国などはロシア制裁に積極的だ。中央欧州諸国はあいまいな姿勢をとり続け、そして西欧諸国は、どちらにも傾かないように中立的な政策を支持している。
こうした欧州内の亀裂がさらに深まる恐れも出ている。大きな要因となるのは経済の状況だ。2014年第2四半期のEU経済は、ゼロ成長となった。物価上昇率が徐々に低下し、日本型のデフレに陥る危険が声高に叫ばれている。中でも衝撃的だったのはEUのけん引車となってきたドイツが、エコノミストたちの予想を裏切りマイナス成長に陥ったことだった。
ドイツのGDPはユーロ圏の約3割を占める。南欧州の金融危機に際しても支援の先頭に立って、常に欧州経済をリードしてきた。2014年1−3月期の成長率も前期比0.7%だったが、そこから大きく後退した。
その理由は輸出が大幅に減少したことだ。特にウクライナ危機を巡って、経済制裁が実施されたロシアに対する輸出減退が大きい。ロシアがクリミアを編入したことを受け、ドイツ政府はロシアに対する500万ユーロ(約6億8500万円)相当の武器輸出や、1億ユーロ(約137億円)相当の戦闘シミュレーターの出荷を差し止めている。より制裁を強めることになれば、“ブーメラン”で自分たちが負う傷も深くなるだろう。
それでも“引けない”プーチン
EU経済の足下が弱っているときに、30%のエネルギーを供給しているロシアと事を構えるのはあまりにも無謀だと言える。もちろんロシアにとっても制裁に伴う痛みはじわじわと広がっている。資本の流出が響き、経済がマイナス成長に落ち込む可能性も出てきている。
それでもプーチン大統領は国内のナショナリズム感情の高まりを無視して、ここで手を打つという作戦はできないのだろう。欧米と手打ちしたとしても、制裁解除だけでは得られるものが多くはないからだ。お互い、“我慢くらべ”のような状況に陥っている。
米国に有効な手立てがないことを見越して、プーチン大統領は強気に出ている。そしてウクライナのポロシェンコ大統領は、東部の親ロシア派を鎮圧することしか頭にないように見える。彼もまた、もしここで失敗すると、連立も崩壊している状況下で自らの地位すら危うくなりかねない。
欧米の株式市場はウクライナ情勢を横目ににらみながら、神経質な動きを見せている。ロシア軍が本格的に介入しなくとも、「義勇兵」による「裏介入」が続けば、いつどこで火薬庫に火がつくか分からないのである。
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