なぜ、“うどん県”からチェーン店が出てこないのか:仕事をしたら“うどん”のことが見えてきた(前編)(2/7 ページ)
「丸亀製麺」「はなまるうどん」「つるまる」――。讃岐うどんを扱っているチェーン店を調べてみると、ある共通点があった。それは、どれも本社がうどんの本場・香川県でないこと。その理由について、香川大学大学院の高木知巳准教授に聞いた。
うどんの本場は香川県
土肥: 香川県って、自ら「うどん県」と名乗っていますよね。2年前に、仕事で香川県に行ったのですが、街じゅうに「うどん屋」がありました。中には看板がないので「あれ? ここで食べることができるの?」といったお店もありました。
実際に食べてみたところ、1杯200〜300円という安さなのに“おいしい”。多くの観光客と地元の人たちでにぎわっていましたが、なぜかそうしたお店は香川県にしかないんですよ。うどんチェーン店の本社を調べてみると、都市部が多い。なぜこうした現象が起きているのでしょうか?
高木: 「うどんの本場は香川県」が本当かどうか、消費量を調べてみました。総務省の調査(家計調査:2006〜2008年の平均値)によると、うどん・そばの1人当たりの年間消費量は香川県が最も多く33キロ。2位の秋田県が22キロなので、断トツなんですよ。しかも、香川県はその大半がうどんで、秋田県は半々くらいではないかと推測されます。
次に、うどん店の店舗数を調べてみました。人口10万人当たりの店舗数は、香川県が最も多く66店舗。2位は福井県の46店舗なので、こちらも断トツ。
土肥: 消費量と店舗数をみると、やはり香川県の人はうどんをたくさん食べているようですね。それにしても、なぜ香川県でうどんが広がったのでしょうか?
高木: 気候が合っていたんですよ。瀬戸内海は雨が少なく、全国の年間降水量は平均1718ミリなのに対して、高松市の年間降水量は1082ミリ。雨があまり降らないので、稲作が難しい。一方、雨が少ない気候は、小麦作りに適しているんですよ。
あと、雨が少ないので、塩づくりが盛ん。地元で塩ができるので、醤油づくりも広がっていきました。さらに、讃岐うどんの出汁として使ういりこの原料となるカタクチイワシも瀬戸内海でたくさんとれます。このように、香川県はうどん作りに適した条件がそろっていたんですよね。
土肥: えっ、でもうどんをつくるのにはたくさんの水を使いますよね。雨があまり降らないということは、水を使えないのでは……。
高木: 四国には南の太平洋側から湿った空気がやって来るので、四国山地を境にして、豪雨と渇水という対照的な気象特性があるんですよ。高知市の年間降水量は2548ミリなので、高松市の倍以上降っています。
讃岐平野ではあまり雨が降らないのですが、山で降った雨が流れてくるんですよ。なので井戸を掘ったら、井戸水が豊富に出てくるところがあります。
香川大学で地質学を専門にされている長谷川修一教授は、うどんと地質の関係について調べました。その結果、昔からある有名なうどん店は、地下水の豊富な扇状地(河川が山地から平野や盆地に移る所などに多く、土砂などが山側を頂点として扇状に堆積した地形のこと)に多いことが明らかになりました。
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