中国経済で“気になる”動き――他人事ではない、Xデーはいつ?:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
「危ない、危ない」と言われ続けている中国経済は、本当に大丈夫なのか。最近もある金融商品が危ないという噂が流れたが、“謎の買い手”が登場して、問題は収束。これまで大きな破たんはなかったが、今後は……。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
危ない危ないと言われ続けている中国のバブル。ところどころで小さなほころびはあるものの、何とか大きな破たんを避けてきた。
最近もあるシャドーバンキング(投資銀行やヘッジファンドなどが行う金融仲介業務)の商品がデフォルトになるという噂が流れ、資本市場は神経質な動きになっていた(関連記事)。しかし破たんの寸前になって突如、謎の買い手が現れ、もともとの金融商品を買っていた投資家はすべて投下資金を確保することができたという。
フィナンシャルタイムズ紙によると、その「謎の買い手」とは、華龍アセットマネジメント。中国政府が1990年代につくった「不良債権買い取り銀行」の1つだ。現在の不良債権の状況はその1990年代のクレジットバブル(返済能力の乏しい会社または人に融資をして、それによって収益を狙う仕組み)の時と並ぶほどだともされる。
問題は中国の信用供与(相手を信用して、自己資金や商品などを利用させること)が異常なスピードで拡大していることだ。2002年当時はGDP(国内総生産)の70%を超える程度だった信用供与額が、今では230%にもなっている。2008年のリーマンショック以来、政府の命令もあって銀行は相手の返済能力に関係なく貸し込んだ。
もっともこれによって中国の不良債権が急増しているかというと、公式統計ではそうでもない。ブルームバーグの資料では、EUの銀行の不良債権比率が3.8%であるのに対し、中国は1%を少し上回る程度だ。この公式統計が正しいと思っている人は少ない。
しかし華龍はゴールドマンサックスなどに株を売ると同時に、来年(2015年)には香港市場への上場を目指している。中国の銀行における不良債権が今後さらに増えてくるのは必至と見られているだけに、潤沢(じゅんたく)な資金が必要ということだろう。
こうした不良債権処理はそれ自体ビジネスになるとしても、今後の中国にとって重荷であることも間違いない。景気が回復しているうちはいいが、いったん景気が落ち始めれば、不良債権の増加スピードに拍車がかかる。そうしたことが起これば、華龍などの資金が足りなくなる事態も考えられるだろう。
実際、この8月には中国の製造業の指標が大きく減速した。政府が発表している購買担当者指数(PMI)は2月以来のマイナスになり7月は51.7だったが、8月には51.1に。HSBCが発表している購買担当者指数はもっと大きく減速している。7月の51.7が8月には50.2と50を割り込む寸前まで下がったのだ。
製造業の指標が低下している要因として、ひとつには供給能力が需要を上回っているということもあるが、同時に習近平政権が進めている汚職摘発も背景にあるとされている。
もうひとつは摘発のリスクが高まっているため、賄賂(わいろ)の相場が跳ね上がっていること。さらに将来、何らかの問題になることを恐れて、地方当局者がなかなか認可を出さなくなっているという事情もあるようだ。
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