10軒に1軒以上が「空き家」──空き家率の上昇は、いいこと? 悪いこと?:博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」(1/2 ページ)
「昔はこうだったのに」──。これまでの常識とは違うことが常識になりつつあると感じる事象はありませんか。データで読み解くと、常識の変わり目が見えてきます。今回は、13.5%に達した空き家から「新しい住まい方」の変わり目を探ります。
博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」
30年以上にわたり生活者を研究し続けてきた「博報堂生活総合研究所(生活総研)」。同研究所の主席研究員である吉川昌孝氏が、さまざまなデータを独自の視点で分析し「常識の変わり目」を可視化していくコラムです。世の中の変化をつかみたいビジネスパーソンに新たなモノの見方を提供します。
日本の空き家率は「13.5%」(総務省 平成25年住宅・土地統計調査より)です。1998年に10%を初めて超えてから年々増えており、過去最高を記録しました。空き家数は820万戸(総住宅数は6063万戸)に上ります。世帯数に対し、総居住(住宅)数が上回っていることを示しています。
本格的な人口減少が始まった2014年現在、標準世帯から単独世帯(ひとり暮らし)に世帯タイプの主流が移っています。つまり世帯数は増加しているのに、住宅数の増加はそれ以上の勢いということになります。
空き家は、高度経済成長期以来の急激な都市への人口移動と人口集中の傾向の中で「都市部の新規住宅が堅調に伸びていること」と、「都市へ人口が移動した後に放置される地方の住宅が空き家として残ること」から生まれます。
特に山梨県、長野県の空き家率は20%近くと高い数値です。都市部へ人が移動して空き家が増えたことに加えて、経済成長期に別荘として建てられた家屋(二次的住宅:別荘など、普段は人が住んでいない住宅)が、経済の停滞でそのまま取り壊されずに空き家化したためです。
人口が集中する都市部も安泰ではありません。高齢化が本格化すると、標準世帯から単独世帯へ移っていきます。今ある住宅と、今後求められる住宅のタイプは一致しなくなることが予想されます。郊外の一戸建て、郊外ベッドタウンの大型マンションなど、標準世帯を想定して建てられた住宅とそこに住んでいた家族が、子ども世代の独立や、親の高齢化で単独化し、生活と住居タイプが一致しなくなります。さらに空き家化は進むでしょう。
こうした空き家率の増加は、日本人の生活スタイルの変化に住宅のタイプが追いつけないことが大きな原因のようです。ただその一方で、こうした空き家を再利用して新たな住スタイルを模索する動きも高まっています。
関連記事
- 日本人の住まいの考え方――どう変化している?
3月といえば、引っ越しのシーズン。日本人は住生活についてどのように考えているのだろうか。博報堂生活総合研究所が行っている調査の結果から、住まいの考え方を見ていこう。 - 親の近くに住むと得をする? 不況で増加する“親子近居”の理由
家を購入するとしたら、どんな場所に住みたいだろうか。会社に近い場所、自然のある場所など、人によってその希望はさまざま。ただ、ここ数年「親の近くに住みたい」と思う人が増えてきているようだ。その理由と背景に迫ってみた。 - 家は購入すべきか それとも賃貸で暮らすべきか
「家は購入する方が得」「いや賃貸の方が安い」といった意見をよく聞く。しかし自分の住まいを選ぶのに「安いか、高いか」という費用面だけで決めていいのだろうか。新連載「あなたはどうする? 住まいの選び方」では、この“難問”にお答えする。 - 賃貸VS.購入はどちらがおトク?――20年間のコストで比較する
「賃貸」と「購入」、マンションタイプを例に取り、20年間のコストを比べてみましょう。「購入」はローン返済や持っている時の税金、管理費などの負担が大きいですが、ケースによっては売却で戻ってくる金額も大きい。一方、「賃貸」は家賃と更新料だけの支払いですが、払ったお金は戻ってきません。20年で比べると、その差は意外にも……? - 博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」:「少子化」を子どもの目から見てみると……
「昔はこうだったのに」──。これまでの常識とは違うことが常識になりつつあると感じる事象はありませんか。データで読み解くと、常識の変わり目が見えてきます。連載1回目の今回は「少子化の変わり目」を取り上げます。 - 博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」 バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.