10軒に1軒以上が「空き家」──空き家率の上昇は、いいこと? 悪いこと?:博報堂生活総研・吉川昌孝の「常識の変わり目」(2/2 ページ)
「昔はこうだったのに」──。これまでの常識とは違うことが常識になりつつあると感じる事象はありませんか。データで読み解くと、常識の変わり目が見えてきます。今回は、13.5%に達した空き家から「新しい住まい方」の変わり目を探ります。
新しい住まい方の模索が本格化 「マイホーム」の固定概念が変わる?
空き家率が二ケタになってから、特にこの10年、新しい住まいの方法、あるいは住居利用の自由度の高まりを象徴する動きがさまざまに見られます。
例えば「シェアハウス」。標準世帯、あるいはそれ以上の大家族が住んでいた住居を、単独世帯がシェアするというスタイルです。テレビ番組『テラスハウス』もそんな住まい方を紹介していますね。住宅以外にも、カフェや雑貨店、レストランなどとして、かつて住居だった古民家を再利用する動きもその一環としてとらえられます。さらに、そうした物件のみを扱う不動産業の業態も徐々に増えています。
1990年代には「コーポラティブハウス」あるいは「コーポラティブマンション」という、土地をシェアして、それぞれが自分の望む家を建てる、あるいは部屋を設計するという方法が一部で流行しました。こうしたゼロから新しいものを作る動きと違うのは、今あるものを複数人で共有したり、リフォームすることで、元来持っていた価値とは「別の価値を創造」する点です。そんなリノベーションの動きが進む背景として、空き家の数が増えた(≒リノベーションしうる待機資産が豊かになってきた)ことがあるのかもしれません。
国土交通省が進めている「二地域居住」(都会に住む人が、週末など一定期間を農山漁村で暮らす生活スタイル)も、当初は大量にリタイア層が発生する団塊世代の今後を考えた計画でした。実際、田舎への移住希望者も当初は60代、50代が中心でした。
それが最近の調査結果によると、想定に反して20代、30代の割合が増え、結果として全世帯に広がっています(関連リンク:認定NPO法人ふるさと回帰支援センター「ふるさと暮らし希望地ランキング」)。
団塊の世代から全世代へ、「今、余っている家(空き家)」を、「今、使える家」にすることが広がりつつあります。空き家を「リノベーションしうる物件」ととらえ直すことで、そのイメージは大きく変わることを示しています。
21世紀は、空き家という価値の再創造をしうる物件がある=「待機資産が豊富にある」時代とも言えるのです。
著者プロフィール:吉川昌孝
博報堂生活総合研究所主席研究員。1965年愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒。著書に『亞州未来図2010−4つのシナリオ−』(阪急コミュニケーションズ・共著)、『〜あふれる情報からアイデアを生み出す〜「ものさし」のつくり方』(日本実業出版社)などがある
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