なぜ『朝日新聞』は池上彰さんの連載原稿を掲載しないと言ったのか:窪田順生の時事日想(3/4 ページ)
『朝日新聞』が大変なことになっている。ジャーナリスト・池上彰さんの原稿を、『朝日』の報道局が掲載できないと突っぱねたことが明るみに出たからだ。こうした不可解な言動が続く背景には、何があるのだろうか。
“身の丈に合わぬ素人経営者”の迷走
海外では、「新聞記者」というのはジャーナリストとみなされる。ジャーナリストは不正を追及したり、世に埋もれる事実や視点を提供したりというのが仕事だ。要するに、「ビジネスマン」ではない。ソロバンを弾くことも得意ではないし、組織を守るために従業員のクビを切るなんて苦渋の決断もしたことがない。だから、外部から経営者としてしっかりとした実績のある人を招く。そもそも記者の多くがジャーナリストとして独立していくので、経営に携わらないということもあるが、「記者は経営者にならない」というのが一般的だ。
しかし日本の場合は、「永田町取材歴30年」とか「経済部一筋30年」みたいな人たちが時間の経過と社内派閥の力関係によって次々とトコロテン方式で経営陣の椅子に座っていく。経営者としてはズブの素人みたいな面々がいきなり従業員4600人の組織を運営する。これで迷走しない方がおかしい。
なんてことを言うと、こいつは「現場からのたたき上げ社長」を否定するのか、「会社のことは勤続年数が長い人間が一番よく分かっているんだ」なんて声が飛んできそうだが、そういう話をしているのではない。
現場スタッフだろうが、営業マンだろうが、管理部門だろうが、ビジネスに関わっている方がそこから組織運営に携わっていくのは分かる。だから、新聞社でも営業や広告部門から経営層になるというのはなんの問題もない。「ジャーナリスト」という特殊な仕事をしてきた人たちに、経営を任せるということが問題だと言っているのだ。
新聞社の記者というのは、自身の利益率が労務評価に影響しないという世にも珍しいサラリーマンである。「今期の君が力を入れた難病の記事は売り上げに貢献しなかった。残念ながら賞与は出ないよ」とか上司から宣告されないし、営業会議で「今期は安倍首相の悪口を20本、あと児童虐待モノを20本書いて売り上げ目標を必達します」とか発表する必要もない。
“売らんかな”や“世論に迎合する”というのはジャーナリズムの「死」を意味するからだ。そういう非生産的で経済活動と無縁なことに社会人生活のほとんどを費やしてきた方たちを、年をとったからと役員室に並べて、山積する経営課題に取り組ませる。冷静に考えればムチャクチャである。
不可能なことを押し付けられた人というのは総じて取り乱す。周りが見えなくなって、イエスマンしか周囲に置かなくなり、まともな判断ができなくなる。しかも、ジャーナリストとしての「信念」みたいなものだけは残っているので柔軟にものを考えられない。権力を握ったことでそれがさらに拍車がかかり、自分を否定する者たちの意見は聞かず、ガンコになっていく。
つまり、「吉田証言」の撤回から池上さんの問題にいたるまでの『朝日新聞』の迷走というのは、“身の丈に合わぬ素人経営者”の迷走と言い換えることができるのだ。
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