ロシアの機嫌を損ねると、世界で「エネルギー危機」が起こる?:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
欧米ではイスラム国への対応に苦慮しているが、ウクライナ危機も終結したわけではない。対ロシアへの制裁を強める中、制裁のデメリットを指摘する声も上がり始めた。経済界では「世界的なエネルギー不足を招く」と心配する声があるが、その理由とは?
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
欧米人を“処刑”し続けるイスラム国(ISIS=Islamic State of Iraq and Syria)にどう対応するのか、各国は頭を悩ませている。9月15日にパリで、20カ国を越える国の外相が集まって鳩首協議をしたが、これで有効なアイデアが出たわけではなかった(関連記事)。そもそもの話をすれば、今までなんとか治まっていたイラクやシリアで、欧米が政権を直接倒したり、反政府勢力を支援したために起こったことではある。ある種の“責任”を取る必要はあるだろう。
かといって欧米諸国も、空爆はしても地上軍で介入するほどの余力はない。それに国内世論もそれを許さないだろう。米国はとにかく戦争を嫌がる雰囲気である上、すでにオバマ大統領はシリアで問題が起きたときから、腰が引けてしまっている。そのおかげで、アラブ諸国はもちろん、イスラエルからもすっかり信頼を失っているのだ。
それに欧州にとっては、ISISよりもウクライナ危機の方がよほど重大な問題なのだ。一応、停戦に合意したはずなのだが、先週末には東部ドネツクの空港で攻防戦があった。それにロシアからまた“人道援助”の輸送隊が国境に向かっており、ウクライナ政府は神経をとがらせている。
ロシアへの制裁を強める欧米諸国
ウクライナ危機の最重要プレーヤーは疑いもなくロシアだが、プーチン大統領がどのあたりで幕を引こうとしているのかが読めない。そのため、欧米はロシアに対する経済制裁をさらに強化しようとしている。
これまでの制裁は、プーチン大統領の周辺にいる人物の入国を禁止するといった制裁にとどまっていて、どちらかといえば“象徴的”ともされていた。しかし先週になって、ロシア最大の国営ガス会社ガスプロムを標的にするなど、ロシア経済に大きな影響を与えかねない制裁措置を発表したのだ。
ガスプロムは欧州のエネルギーのうち、ほぼ3分の1を供給する大企業だ。もしロシアがこの制裁に対抗して欧州へのガス供給を止めるようなことになれば、これから冬に向かうなかで、欧州への打撃は大きい。対するロシアも制裁企業に対する緊急基金を創設する方針を明らかにした。
制裁対象になるのはガスプロムだけではない。石油最大手のロスネフチやトランスネフチなど、米国はエネルギー大手企業を欧州の資本市場から締め出す方向で動いている。さらに、自国のエネルギー企業がロシア企業と行う合弁事業も制裁のターゲットにしようとしているようだ。
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