医師が住民に襲われる――世界最恐の感染症「エボラ出血熱」の“二次被害”:伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)
連日のようにデング熱関連の報道がされていた日本だが、世界に目を向けると、今もエボラ出血熱は大きく取り上げられている。病気それ自体も大変危険なものだが、近ごろは、治療や啓発を行おうと現地入りした医師が襲われるといった“二次被害”が起きているという。
世界と現地住民との“温度差”
先日、ギニアで村などを回って注意喚起などを行っていたグループが地元民に襲われて8人が死亡、行方不明者も出る“二次被害”が発生した。エボラに注目が集まる中で、善意で現地に入る人たちに対する地元の不信感が強まっているという。
2014年8月末には、西アフリカ各国でエボラ感染の封じ込めを狙った外出禁止令が敷かれた。だが、市民がそれに激しく抵抗し、ギニアやリベリア、シエラレオネでは暴動という“二次被害”に発展している。
シエラレオネでは、9月19日から3日間にわたって、国内すべての地域で外出禁止令を出して調査や啓発活動に踏み切った。とはいえ、これは国民だけでなく、国際支援団体からも「懲罰的で非生産的である」との声が上がった。さらには「医師や医療従事者に対する嫌悪感を助長しかねない」と懸念する専門家もいる。実際に、外出禁止令の期間中、感染死した人たちの埋葬を行っていた医療チームが地元民に襲撃される事件も起きた。
私が現地人の気持ちを完全に理解しているとは思わないが、エボラの流行で欧米諸国が大騒ぎする一方、現地ではそれほど大したことと捉えられていないのでは、という印象を受ける。
医療が先進国のように発展していない、つまり、簡単に先進医療行為を受けられないアフリカの地元民の感覚を想像してみると、多分こうではないか。「何かから感染したと思われる病気で死ぬ人は周りに少なくない。それが『エボラ』だろうが『マラリア』だろうが関係ない――」。要は“病気になって命を落とす”ことに変わりはないからだ。
英ビジネスウィーク誌が掲載したこんなデータ(参照リンク)がある。4カ月ごとに調査したシエラレオネの死者数と死因だ。それによると、約650人が髄膜炎で死亡し、約700人が結核、約800人がエイズ、約850人が下痢性の疾患、そして3000人以上がマラリアで死亡しているという。
エボラで死亡した人の数は、2014年4月に最初に確認されてから8月までの4カ月ほどで298人になったが、その割合は、全死者数の2%ほどでしかない(WHOによれば現在までに疑わしいケースもいれると562人が死亡している)。にもかかわらず、いきなり欧米から医師などが完全装備の防護服を身にまとって登場し、「あなたはエボラ出血熱に感染している」と言われても、状況を理解するのは難しいだろう。
映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』において、主人公が防護服を着た状態で1950年代にタイムスリップし、その姿を見た1950年代の人からショットガンで撃たれそうになるというシーンがあったが、まさにそんな状況を想像してしまう。
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