人工知能の怖さは予測精度にある:今どきの人工知能(2/4 ページ)
人工知能は、“人間らしく”する必要はありません。ただ単純に、予測精度が高ければいい。鉄腕アトムのような形でもなく、また、人間のようなふるまいもしないのです。
地球派? 宇宙派?
塩野: SF的な話ですと、人工知能がどんどん学習していって「弱い人間という生き物はもういらないよね?」という話になるのかもしれませんが……。
松尾: 人工知能が「人間はいらないよね?」と考えるところですが、かなりとんだ話としては、実は人工知能学会(※1)でその方向の話題が出ていまして、「あなたは地球派? それとも宇宙派?」と聞かれましたよ。
塩野: 地球派か宇宙派か? ガンダムの話でしょうか?
松尾: 真っ昼間からそれを真剣に議論するところがすごい学会ですが、地球派はやはり人間が大事、人間が人工知能を使っていこうという立場。宇宙派のほうは、そもそも人間は人工知能を作るためにあったのだとする説をとる立場です。
塩野: なるほど! 重力に魂を縛られた人びとは、人工知能を作るために存在したのだ、と。
松尾: そう。ですからそれができてしまえば、人間はある種の役目を終える。絶滅する必要はないですが、人工知能の存在を支えていけばいい。たとえて言えば、遺伝子なのかミーム(※2)なのかという話にも当てはまります。生物には遺伝子があって、生体としての基本情報を伝えていきます。一方、ミームは人間の文化を伝達する基本単位で、人間が社会を形成した瞬間、ミームが文化レベルで後ろの世代に引き継いでいく。ミームから見れば、遺伝子は単なる運び屋、乗り物と考えられます。
塩野: リチャード・ドーキンス(※3)から見れば、生き物は遺伝子の乗り物ですが、人工知能にとって人間はただの乗り物かもしれない。新しい宇宙派の理論ですね。
松尾: 人工知能学会ではここ何日か、知り合いに会うと挨拶代わりに「地球派? 宇宙派?」と聞いているような状況でした。
塩野: それは、本当に映画「マトリックス(※4)」の世界ですね。乗り物として使われた後は、ただの栄養分になってしまいますよ(笑)。
松尾: 栄養分は栄養分で、もっと良いやり方もありそうですけどね。人間である必要はありませんから。
(※3)リチャード・ドーキンス=英国の生物学者。1976年に著した『利己的な遺伝子』で、「ミーム」の言葉と概念を発表した。1941年生まれ。
(※4)マトリックス=1999年に公開されたキアヌ・リーブス主演の米国のSF映画。コンピューターが発達して人間を追い抜き、大多数の人間はコンピューターの動力源として培養される未来を描いた。
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